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ひきこもり剣士
「・・・・さっきは、ごめん」
「うん。もういい・・・」
新納流試心館の館主・御仮屋睦と“ひきこもり剣士”平手慎三郎は、紫尾市御館町(しびし・おたてちょう)の武家屋敷街を、散歩している。二人っきり、と言いたいが、そこはしっかり、大型犬のタダモトが「ぼく、ボディーガード」と言わんばかりに、従っている。そして、二人の会話を子細逃さないよう、しっかり聞き耳を立てているのだろう。もっとも、土曜午前、一応紫尾市の観光地だ。睦が、しっかり曳き綱を握っている。
「立ち合い」を終えて、今度は「お見合い」らしく、睦は慎三郎と屋敷の縁側にでも座って、話をしようと思ったのだが、どうにも人が集まりすぎてしまった。ゆっくり二人で話をする雰囲気では、ない。
それならば、と、慎三郎を散歩に誘ったのだ。
それでも、ビシッとおしゃれをした女の子と、剣道着姿の男と、大型犬の組み合わせは、目立ってしまう。すれちがう観光客から、「なにごと?」とばかりに好奇心に満ちた視線を受けてしまうが、それも“修行”だ。気にしないことにしよう。
とはいえ、睦は、まだ恥ずかしさから、完全に回復していない。なかなか滑らかに、言葉が出てこない。
“ひきこもり”の慎三郎の方が、気を使ってくれるのだろう、
「・・・いい天気だな。夜行性のオレには、ホント眩しすぎる。あっ、日傘か、せめて帽子でもないのか?」
存外、慎三郎は気が利くようだ。
「うん。大丈夫」
睦は、短く答えた。
取り付く島も無い睦の返答に、慎三郎は明らかに困惑している。「眩しすぎる」という空に目を上げて、目をショボショボとさせている。
そして、
「・・・・・・・あっ、あっ~~。
そのワンピース、とっても似合ってるぜ。きっと、お気に入りの一着なんじゃない?。
ホント、ごめん。破れたりなんかしていない?」
必死に、話しかけてくる。
「・・・うん。たぶん、大丈夫。
・・・・・・・・・・・・・・・・・、
ごめんなさい。
『だから、女は気まぐれで、嫌いだ』
って、思ってるでしょ・・・・?」
睦は、なんとか答えた。
「うん?。・・・いや、正直なところ、
『ああ・・。これが生身の女の子なんだ~~』
って思ってる。それを『面倒くさい』って思うより、オレは『楽しいな~』って、思っているところ」
「そうなの?」
「そうとも。
今どきの女の子といえば・・・・、“ローライズ”って、いうのかい。しゃがめば、お尻丸見え状態でも平気の平左、って感じじゃない?。
恥らうアンタ。オレは、とってもカワイイと思うぜ・・・・・・。」
さすがに、慎三郎も、無理をし過ぎたのだろう。赤くなった顔を、今度はアスファルトの路面に、向けた。
「・・・・・うん・・・・・・・。
見たの?」
「えっ?。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
実は、他の人はどうだか知らないが、正直に言う。
オレは、バッチリ拝見した。ごめん。」
「もうっ!!!」
立場は、完全に逆転だ。
タダモトの耳が、せわしなく動く。
「うん。もういい・・・」
新納流試心館の館主・御仮屋睦と“ひきこもり剣士”平手慎三郎は、紫尾市御館町(しびし・おたてちょう)の武家屋敷街を、散歩している。二人っきり、と言いたいが、そこはしっかり、大型犬のタダモトが「ぼく、ボディーガード」と言わんばかりに、従っている。そして、二人の会話を子細逃さないよう、しっかり聞き耳を立てているのだろう。もっとも、土曜午前、一応紫尾市の観光地だ。睦が、しっかり曳き綱を握っている。
「立ち合い」を終えて、今度は「お見合い」らしく、睦は慎三郎と屋敷の縁側にでも座って、話をしようと思ったのだが、どうにも人が集まりすぎてしまった。ゆっくり二人で話をする雰囲気では、ない。
それならば、と、慎三郎を散歩に誘ったのだ。
それでも、ビシッとおしゃれをした女の子と、剣道着姿の男と、大型犬の組み合わせは、目立ってしまう。すれちがう観光客から、「なにごと?」とばかりに好奇心に満ちた視線を受けてしまうが、それも“修行”だ。気にしないことにしよう。
とはいえ、睦は、まだ恥ずかしさから、完全に回復していない。なかなか滑らかに、言葉が出てこない。
“ひきこもり”の慎三郎の方が、気を使ってくれるのだろう、
「・・・いい天気だな。夜行性のオレには、ホント眩しすぎる。あっ、日傘か、せめて帽子でもないのか?」
存外、慎三郎は気が利くようだ。
「うん。大丈夫」
睦は、短く答えた。
取り付く島も無い睦の返答に、慎三郎は明らかに困惑している。「眩しすぎる」という空に目を上げて、目をショボショボとさせている。
そして、
「・・・・・・・あっ、あっ~~。
そのワンピース、とっても似合ってるぜ。きっと、お気に入りの一着なんじゃない?。
ホント、ごめん。破れたりなんかしていない?」
必死に、話しかけてくる。
「・・・うん。たぶん、大丈夫。
・・・・・・・・・・・・・・・・・、
ごめんなさい。
『だから、女は気まぐれで、嫌いだ』
って、思ってるでしょ・・・・?」
睦は、なんとか答えた。
「うん?。・・・いや、正直なところ、
『ああ・・。これが生身の女の子なんだ~~』
って思ってる。それを『面倒くさい』って思うより、オレは『楽しいな~』って、思っているところ」
「そうなの?」
「そうとも。
今どきの女の子といえば・・・・、“ローライズ”って、いうのかい。しゃがめば、お尻丸見え状態でも平気の平左、って感じじゃない?。
恥らうアンタ。オレは、とってもカワイイと思うぜ・・・・・・。」
さすがに、慎三郎も、無理をし過ぎたのだろう。赤くなった顔を、今度はアスファルトの路面に、向けた。
「・・・・・うん・・・・・・・。
見たの?」
「えっ?。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
実は、他の人はどうだか知らないが、正直に言う。
オレは、バッチリ拝見した。ごめん。」
「もうっ!!!」
立場は、完全に逆転だ。
タダモトの耳が、せわしなく動く。
更新日:2011-09-11 06:45:14