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小説

携帯でもPCでも書ける!

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着信

 その夜、院内見回りをしていた私は、ある部屋の前で、携帯着信音に足を止めた。
 「霊安室」。今日は、事故でほぼ即死状態だった若い男性が一人安置されている。きっと、その人の携帯だ、と、私はマスターキーで扉の鍵を開けた。
 電灯を点け、遺体すぐ横に置いてある、男性の所持品を見る。
 施錠部屋とは言え、この管理体制は杜撰だと前々から思っていた。これまでは一介のナースで責任もないし、と特に意見しなかった。けれど、電源入れっぱなしで放置、というのはあんまりだ。
 その間も着信は続く。メールではない。ここへ架けているという事は、亡くなった事を知らない相手。
 私は、ほんのちょっとの親切心で、通話ボタンを押す。
「もしもし?」
すると、中年男性の声が聞こえて来る。
「あ、え、あっ?」
慌てている。いきなり別人が出て驚いたのだ。
「本人が出られないといいますか、ちょっと事情で代わりに…」
言葉を用意していない私も上手く説明できない。それでも相手は事情を察したらしく、平静になって答えてくれた。
「いや、今し方着信があって、すぐそのまま折り返したから、間違いないとは思ったんだが」

 え?

 遺体を見る。
 すると、私を見つめる、大きく見開いた目が。

更新日:2011-07-26 19:39:24