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小説

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カンバスの女

 白磁の肌に椀型の乳房、誘惑止まぬくびれ、艶めかしい脹ら脛。画家の卵たる書生や塾生が為、自ら裸身を晒す先生の細君に、嗚呼、私は何と赦されざる劣情を催すものか!されど、かように理想に近き女体に出会い、男の野生を鎮める事は出来ぬ。惜しむらくは、肉付きの薄い臀部であるが、否、その不完全さが、また良い。
 が、我が稚拙なる腕前は下劣な欲情に震える指先は、かの肢体の美の欠片をもカンバスに留め置く事が出来ぬ。もどかしく口惜しい。
 されど、想いは届く。或る夜、情熱の限りを打ち込みしカンバスより、婦人が抜け出た。何と見下げし我が魂。かような物の怪をも産み出すとは!
 とは申せ、実これが夢なれば、据え膳喰らわずして何が大和男子よ!私は喰らった。その欲情を。その蜜を。…だがこれは、憧れし彼の方ではない。幻なのだ。悲しく儚い夢なのだ。



「無理心中たあ、毒婦の末路には出来過ぎだ。純情真面目な書生さんまで食らうから…あ?どうした?」
 師の妻を殺し自害した学生の部屋の検分に来た刑事に問われ、相棒刑事が答える。
「いや、この書生、何を描きたかったのか、とね。この真っ白なカンバスに」

更新日:2011-08-03 19:40:55