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真夜中の電話

 はるか遠くで鳴っていた。それが電話の音だと気づいたとき、私はとっさに布団の中にもぐりこみ胎児のようになって耳を押さえた。午前一時三十分。こんな時間にかけてくる電話にロクなものはない。間違い電話かいたずら電話、あるいはだれかが亡くなったという知らせ。しばらく身じろぎもせずにいた。それでも電話は鳴り続けた。緊急かもしれない。

 私はのろのろと起き上がり、携帯電話を開いた。
「はい……」
 何も聞こえない。ただ電話の向こうで息をのむ気配がした。

「だれ? イタズラなら切るから」
 後悔した、と同時にホッとしていた。だれも死んじゃいない。再びベッドにもぐりこんで目を閉じた。すぐに睡魔がおそってきた。時間にしてどれくらい眠ったのだろう。また電話が鳴った。絶対出ないから、と決心したが、しつこく鳴り続けている電話に再び携帯をにぎった。ひょっとして本当になにか用事があるのかもしれない。今度は黙って出た。沈黙が流れる。やっばりイタズラか、と切ろうとしたときだ。

「オークションで」
 女の声だった。
「五百万円で落札したのよ、あんたのために」
 落ち着いた中年の女の声だった。

「なんのこと? あなただれ?」

更新日:2011-07-17 17:01:10

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