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小説

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二代目

彼は幽姫洋一(ゆうき・よういち)30歳。
この街の暴力団組織、紅椿一家会長の不肖の息子、つまり跡継ぎである。

関西の指定暴力団に所属する紅椿一家は、全国レベルからいえば吹けば飛ぶようなちっぽけな組だが、この地方都市では、商業・工業・政治と、あらゆる分野に根を張る、裏の実力者だった。

その二代目と言われる洋一は、全身でヤクザを表現している父・義隆とちがって、銀河鉄道の某美人もうつむいて泣き崩れるといわれるくらい美しい眼と身体をした、母・凛にそっくりだった。

そのせいでやたらとモテた。女性はもちろん男にも。

言い寄る女の子たちには愛のキスを。
鼻息を荒げて近寄る男どもには重い拳を、おしみなく与えてきた。
そうやって生きているうちに、ヤクザの息子という肩書きも後押しして、いつの間にか立派な次期二代目と言われるようになっていた。
持ち前の美貌とは裏腹な洋一の凶暴性と悪事の際の頭のキレも、これからの彼の地位をゆるがないものとしていた。

今夜もこの街で一番のクラブで飲み明かし、お姉さんたちの決しておせいじではない熱い視線に見送られて店を出た洋一は、送るという組の者をムリヤリに帰すと、一人深夜の街を歩き出した。

「二代目、ごくろうさんっス!」
「おつかれさまっス!」

洋一の姿はどこへ行っても目につくらしい。
道行く多種の人々からそんな挨拶が彼に贈られた。
洋一は鷹揚にそれらを受けながら、少し足を早めて通り過ぎてゆく。

盛り場を離れ、シャッターの下りた商店街へと足を踏み入れたところで、洋一は止まってあたりを見回した。
照明に照らされたアーケードの中は、人っ子ひとりおらず、まるで墓場のようにシーンと静まり返っている。

洋一のなで肩がガクリと落ち、弱いため息が口から漏れた。
----- やっと独りになれた・・・・・・・

さっきまでの辺りを睥睨する目と威圧する足取りは消え、美しい大きな瞳をうるませ、長いまつげをしばたかせて、また歩き出した。
----- どうしてこうなっちゃったのかなぁ・・・・・・・・
うつむいて歩きながら、独りになるといつも考えることをまた心の中で繰り返した。

更新日:2011-07-17 03:33:02