• 作品を探す:

小説

携帯でもPCでも書ける!

  • 16 / 166 ページ

起動

どこかで電話が鳴っている。
----- うるせー、誰か出ろよ早く!
眠りの中を浮上しながら、洋一はそう思ってうなるが、電話の音は止まらない。
----- 誰もいないのか? 真子、綾乃、水音、出てくれ。 ・・・・・・シン。おいシン、出ろ!

そこで飛び起きた。身体中が痛い。
どうやら床の上で寝てしまったらしかった。
座り込んでぼんやりと首を回した先に鏡があって、その中をのぞいた時、洋一はカッと目を見開いた。

長い黒髪に薔薇色のリップ。
昨日の記憶が音をたてて流れ込んでくる。
起き抜けだったが、頭はすばやく事態を把握していた。
ケータイを探し出すと、ボタンを押して耳に当てる。

「兄貴、おはようございます。今どちらですか?」
爽やかなシンの声が鼓膜に流れ込み、昨夜の彼とのニアミスがまざまざとよみがえってきて、洋一は顔を真っ赤にした。
「・・・・兄貴?具合でも悪いんですか?すぐに迎えに行きますから、今いる場所を・・・・・」
「大丈夫だ、くるな!」
思わずそう叫んでしまってから、うっと言葉に詰まる。
いらぬことを口走ってしまったと、死ぬほど後悔したがもう遅い。
はたしてシンは、己の兄貴の異変を的確に察知して、声をひそめて聞いてくる。

「・・・・・・わかりました。大丈夫です、誰にも言いませんから。で、新しい彼女のところですか?」
「ま、まぁそんなとこだ」
「では秘密にしておきますので場所を・・・・・」
「それはダメだ!」
「えっ?」
「あ、いや・・・・・ この人はカタギの娘さんでな、ヤクザの俺が迷惑をかけるわけにはいかねぇんだ」
「・・・・・兄貴。真子さんや綾乃姉さんも一応カタギですよ。水音さんなんか大学の先生ですし」
「バカヤロウ!事情があるんだよ、事情が」
「ですが、二代目の居場所も知らないでは、組に顔向けできません」
そう言われてもこっちも困る。
墓穴掘りまくりだったが、なんとか誤魔化そうと洋一は必死になった。

だが、シンの執事的とも言えるカンの方が早かった。
「兄貴・・・・・ 彼女とかではなくて、何か妙なことになってるんじゃないですか?」
彼が重要な事をたずねてくる時の、控えてはいるがうむを言わせない強い口調である。
「え、妙なことって?」
「病気とか」
おしい。半分くらい当たっている。だがその言葉に洋一は蒼ざめた。
なんと鋭い男なんだと舌を巻くが、ここは認めるわけには行かない。

「いや、元気元気。ちょっと二日酔いだけど」
「何か心配事でもあるんじゃないですか?」
「ないってそれ。 ほら、仕事も順調でトラブルとかもないし」
「そうじゃなくって。プライベートとかで」
「充実してるよ。それ、なんていうの、リア充ってやつ?あれだし」
「それにしては声が微妙に震えておられますが・・・・・・」
おまえは刑事か、と叫びたいくらいのカンと追及だったが、じっと洋一は耐えた。

----- シンには使いたくなかったが・・・・ しかたがねぇ、二代目パワーで行くしかない
ドスの効いた声で言った。
「おう、シン。てめぇ二代目の言うことうたがってんのか?四の五のいわずに言うこと聞けや!」
「・・・・・・申し訳ありません」
「今から事務所に行く。おまえはそこで待ってろ」
わかりました、と悲しそうな声でこたえたシンに胸がチクリと痛んだが、こればっかりはしかたがない。
洋一はケータイを切ると、バスルームに飛び込んでメイクを落としてシャワーを浴び、出かける支度をしてマンションを後にした。

更新日:2011-09-22 00:21:39