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彼女は死んだ

Eの場合

 彼女に対する僕の印象は「扱いにくそう」だった。
 いつもぶすっとしているのを見て「なんであんなに機嫌が悪いのだろう」と思ったが日を追うごとにそれが彼女の「普通」なのだとわかった。

「ゲーム厳禁!発見次第アカウント停止」

 廊下にでかでかと貼ってあるにも関わらず、授業中にしていたのを何度も目撃した。アカウント停止にしなかったのは提出物をちゃんと出していたからだ。彼女は(大抵の人がそうなのだが)やればできる子だと思っていた。
 そんな彼女は2年前に大学を辞めた。「つまらないしイライラする」と言ったらしいが、1年の後期から選択できる授業で希望のコースを取れなかったことが原因だと僕は踏んでいる。
 実質1年と3ヶ月ほどしか在籍していなくて特に目立ってたわけでもない彼女を今思い出せたのは、奇跡と呼ぶには大げさだがそこそこ近い。
 彼女が大学を辞めた本当の理由は今となってはわからない。
 なぜなら大学を辞めた2年後、21回目の誕生日の朝に彼女は死んだのだ。

 彼女を思い出せたのはおそらく名字がめずらしかったからだろう。
 いつものように授業で使えるネタはないかと新聞を隅から隅まで読んだ時だった。
 31面、真ん中より少し下に小さいと言ったら嘘になるし、大きいと言ったら釣った魚の大きさを手で示すのと同じことになってしまうぐらいの大きさの記事だった。
 部屋中ペンキだらけで、壁に浴びせたのから手形、足形、バケツを倒したのとそれぞれ違う形で空気に触れ、彼女と同じように(同じ早さかどうかまでは載ってなかった)固まっていったらしい。
 ペンキはビビッドからパステル、ダークトーンと多彩で色も全てそろえたのではないかというぐらい溢れていたそうだ。その時部屋にあったのは彼女自身とペンキと、扇風機。
 顔に扇風機を当てたまま寝ると酸素不足で死ぬことがあるのを知っていたらしい。

 これは僕の想像だが、彼女は右を向いて横になった状態で、体の大部分を蛍光黄緑と蛍光ピンクに覆われて左足の先に赤、右足の膝から下に青、天井から落ちた白に近いピンクのペンキが右頬に2滴、血しぶきのような形で付いていたのではないだろうか。幸せそうな笑みを浮かべて。

 遺書はなく、生前の彼女にも不自然なところはなかったが警察は自殺と断定した、と書いてあった。状況が状況なだけに(5つぐらいあったけれど派手すぎる、とだけ書いておく)その判断が正しいのか疑問だが、場所がそう示していたのだろう。なんとなく想像できる。
 彼女は美術系の学部の中でほんの少し“異色”だったらしい。本物の異色だったのかぶっていたのかはわからない。でも、自身を作品にすることはできただろう。僕はそっち方面の専門じゃないから自信がないけれど、成功したのではないだろうか。
 ただ、人の目に触れられなかったのが失敗だった。やはり彼女は未熟だったのだ。

更新日:2010-01-21 20:58:35

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