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その9

 コート奥へと放たれるシャトル。アウトになればワンポイントで真比呂の勝利条件は達成される。それを恐れてそれまでは少し浅めになっていたシャトルだったが、ここにきて今まで以上にきつい位置へと飛んでいく。真比呂もそれを見送ることは考えていなかった。自分がラケットを振ってシャトルに当てなければ、中島のシャトルの行方ですべてが決まってしまう。それだけは嫌だった。

(アウトだろうとインだろうと、振る!)

 真比呂はシャトルの真下へ入ってラケットを振りかぶる。左手でシャトルをロックオンし、右手を前に思い切り振りぬいた。前に足を踏み出すと同時にシャトルを打ち込むと、ハイクリアとなってストレートに飛んだ。コースはシングルスライン上。入っているかどうかきわどいコース。それを中島は躊躇なく打つ体勢に入る。

「おおお!」

 中島は初めて気合いを表に出して、ラケットを振りぬく。スマッシュはクロスでコートを切り裂き、真比呂のコートを襲う。しかし真比呂は反応してラケットを伸ばしながらサイドステップで進んだ。バスケの試合のようにまっすぐ走るところから、不格好ではあるがサイドステップになっている。シャトルに追いついた真比呂がラケットを振りぬくと、ストレートのロブで中島のコートへと返った。最後になるかもしれないラリーにして、今までで一番際どいコースを互いに狙っている。真比呂の場合は偶然の要素が強かったが。
 互いの間でシャトルが行き来する。三度、四度と続いていくうちに、徐々に中島のほうが後ろに下がることが多くなった。真比呂が全力で打ち返しているために、自然とパワー負けしている。しかしそれではいずれアウトになると真比呂は考えて、次のシャトルが来た時に前に落とすと決める。

(次……ここだ!)

 前に落とすために自分も前へと出る。しかし、その瞬間を見計らったかのように中島はシャトルを遠くへと飛ばした。自分の頭上を越えようとするシャトルを思い切りジャンプしてラケットを伸ばし、インターセプトしようとする真比呂。
 そのラケットが、かすかにシャトルへと当たった。
 元々鋭い打球を返すために軌道は低めだった。しかし、真比呂の身長とジャンプ力が中島の想像以上に高かったのだ。シャトルは偶然か、ネット前に落ちていき、慌てて中島もラケットを伸ばして前に突進する。

「届けぇええ!」

 中島の気持ちが繋げたのか、ラケット面にシャトルが触れて、ネット前にふわりと上がった。

更新日:2012-05-20 22:02:04

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