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小説

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13時21分: 海岸前

挿絵 240*320


 海風が強い。少し段差のある列車からホームへ飛び降りると、清瀬は大きく一つ伸びをした。

 「おーっ、潮の匂いがする。よし、走るぞ久我!」

 小ぢんまりとした駅の出口を、久我は見ていた。浜辺の風景が四角く切り取られ、駅舎のシルエットにすっぽり収まっている。
 異世界、と言っていいほど、さっきまで居た場所とは空気が違った。

 「ガキじゃねーんだから! ・・・・・・って、聞いてねぇよ」

 返事を待たずに駆け出す清瀬を、久我はあきらめて見送った。高くなった日差しに目を突かれ、思わず片手で光をさえぎる。

 「ったく。野郎ふたりであれってどうよ」

 清瀬のテンションと、目を焼く光の強さがダブって見えて、軽く辟易しながら駅舎前の通りを横断する。
 波の音が近くなる。砂にざくざくと足を取られ、黒かったスニーカーは白く粉を吹いた。詐欺だ、と言ってやりたいのに、清瀬の姿が大きくなるにつれ、毒気を抜かれてしまう自分がうらめしかった。

 「おーーそーーいーー!」

 ヒトの気を知ってか知らずか、ひどくご機嫌そうな清瀬は、いつの間にか両手に二本、ペットボトルを手旗信号のごとく振っている。
 おもむろに、一本を放ってよこした。キレイな放物線。
 ボトルは金色の光を帯びて、目の前にサックリと突き刺さる。

 「それ、おれのおごりーーー!」

 ジンジャーエール。砂の上で驚くほど強い陽射しにきらめいた、ボトルの液体を引き抜いて、久我はただ立ち尽くす。
 金色に輝く液体に、影は生まれない。
 まるで恋人とでもいるかのようにはしゃぐ清瀬の背にも、影などない。
 そこへ辿り着くまでの道にも、濃い光は落ちていても、遮る影は見当たらない。
 手にあるのはただ黄金色の液体で、久我はそろりとキャップを捻った。
 瞬間、投げ渡されたボトルに充満していたガスが溢れ出し、久我の顔めがけて新たな弧を描いた。

 「・・・・・・清瀬・・・・・・てんめーーーーー!!!」

 久我はようやく走り出した。が、辿り着くより前に、清瀬は自分のペットボトルの洗礼を、至近距離から浴びてひっくり返っていた。

 「おまえ・・・・・・まさかとは思うけど。あれだけ振ってたの、自分で気づいてなかった、って言うんじゃないだろうな?」
 「ぶはははは! 結果オーライ!!」

 ゴールデン・パンチを浴びた久我の顔を見るなり、清瀬は仰向けにひっくり返ったまま、手足をバタバタさせて喜んだ。
 久我の中に、ふつふつと何かが湧き起こる。ボトルに残った液体を傾け、洗礼の続きを自分の手で浴びせたい、という誘惑に、久我は素直に従うことにした。

 「なーにが結果オーライだ、史上最強に意味不明だっつーの」
 「ぎゃあーーー! 鬼畜っ、悪魔ーーー!」

 嫌がってるんだか、笑い転げてるんだか、真上から見てもよくわからない。ただ、どっちでもいいや、と自分が思っていることも、久我は知っていた。

 「いいんじゃね、どうせジンジャーエールまみれなんだし。なんか嬉しそうなのが軽くムカつくよな」
 「ぷは! げほげほ、笑いすぎて息できねーーー!」

 わざわざ一時間かけてここまで来て、やってることがこれかよ・・・・・・と、改めてバカバカしさを痛感した時。
 久我は清瀬の隣で、声を上げて笑い出していた。

更新日:2011-07-07 05:02:40