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小説

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11時54分: CDショップ前

挿絵 240*320


 ああ、ここで三年貯めたポイントカード・・・・・・CDと交換する前に財布ごと落っことして、財布よりそっちがショックだったんだよなー。
 と、感傷にひたりながらショーウインドウを通りすぎたところで、なにか今、見過ごしちゃいけないものを見たような気がして、おそるおそるバックしてみた。
 背中。服と髪だけで判断するのもどうなんだ? ウインドウに顔映ってないか。おお、ソレっぽいソレっぽい。

 「よー、何やってんの」

 人違いなら、目線を外してすっとぼけよう。そんな姑息な作戦も、振り返ってきょとんとした顔を見ると、どうやら決行しないで済みそうだった。

 「え、おまえこそ、なんでここに」

 この久我という男、油断している時だけは、妙に乙女チックな反応を示す。くれぐれも念を押すと、かわいいのは油断している時だけだ。

 「んー、あえていうなら・・・・・・嗅覚?」
 「俺、ときどきおまえが怖い。おまえって実は神とかいうオチじゃねえよな」

 ドコ経由してきたか知らないけど、待ち合わせの駅近くでばったり会って、いきなり神まで飛躍しちゃうあたり、久我の乙女モード全開だ。奴が全く気づいてないのをいいことに、おれはこの楽しみを引っ張るべく、おかしさを飲み込んでしれっと会話を繋いだ。

 「いいなぁ、神かあ。手始めに、給料1ケタ上げてぇぇ。そしたらビルの最上階ぶちぬいたフロアで、ガウン着て、
  ワインをこう・・・・・・」
 「それ・・・・・・神? まるっきり天上を知らない庶民の思考じゃね。おまえ、彼女とかにもそういうこと話してんの」

 乙女は完全に夢から覚めて、呆れた顔でこっちを見ている。チッ。

 「庶民の友達は、庶民。これぞ神の采配だな~。
  あれ、ドサクサに紛れてすげぇトコ探られてね? おれ、いねーし彼女」

 歩きながら答えて、ふと思う。付き合い長いわり、こういう話はあんまりしてこなかったな。しかし残念ながら、気になる相手を様子見してるだけの近況は、久我と違う意味で乙女チック過ぎて、とても語る気になれない。

 「で、そういうお前はどーなの?」

 振ってくるからには、振っていいんだな。お前が喋れ、久我。

 「・・・・・・いたら、おまえと映画見ないだろ。
  だいたいさ、いないとか言ってっけど、次の日には彼女紹介してきそうなのが、清瀬マジック。あの店入ろう」

 久我の切り替えの早さはいつものことだ。確かに、映画までまだ時間はある。だからって、相談もなしに牛丼屋へスタスタ入っていけるのも、おれに言わせれば久我マジックなんだが。
 入り口前の換気扇から、牛丼屋なのに、すげーカレーの匂いがした。

更新日:2011-07-06 17:54:02