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第三章 『いつだって…』 1988.9~

 1988年9月中旬
 恵美は今地元にいる。
 父が強引に迎えに来て、強制送還状態だったのだ。
 勿論カズに別れの挨拶も言えないまま。
 怒っているのか電話にさえ出てくれなかった。

 制服も冬服に変わり、数ヶ月ぶりの登校だった。

「おひさぁ」
 少し恥ずかしそうに登校し、妙に元気に挨拶をする。
 歓声をあげ大勢の友達が集まってくる。
「やぁん、恵美元気だった?凄い心配したよぉ」
「あはは…ごめん」
「ずっと仕事だったの?テカあんたまたやせた?」
 親友のユカが再会して数分後にそれを発する。
「うん…かな?たぶん」
 あえて痩せたという事実をはぐらかしお土産を渡し誤魔化した。
「それじゃぁ、勉学でもしますか…」
「ベンガクって!あははは、何言ってるの」
 言い馴れない単語で笑いを取り、更に誤魔化す。
 始業のベルが丁度鳴り響き、通常の子供のように義務教育を受ける。

 普通の生活…
 田舎の暮らし…
 カズがいない街…

 小さくため息を付き窓を見る。

 いつだって、貴方の事を想っています。
 だから…嫌わないで…

 ちゃんと説明しないでごめんなさい。
 ちゃんと待っていてね、すぐ帰るからと伝える事が出来なくてごめんなさい。

 届くはずも無いのに、空へ向かって祈る日々が続く。


 恵美は脱走計画をしていた。
 だが、母の変わり果てた姿を見て一気にその思いは転倒する事になる。

更新日:2009-01-31 12:56:44

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