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 和杷はそんな恵美に自分に出来る事はないだろうかと気晴らしに連れて来たのだ。
 それは恵美も痛い程解っていたから文句を口ではいいつつも素直に受け入れたのだ。ここに入るにはきっと物凄い裏に力が働いているって子供でも理解する。
 先程の和杷から聞かされた彼等の《凄さ》と、レッスン会場の警備、警戒態勢を考えても《陰の力》がいかに凄いかと痛感する。

 和杷には感謝しつつもやはりそれだけで、彼等に対する興味は変わらず無い。
 胸中で『聞いた事ある、見た事ある』程度だ。
 虚ろな瞳
 何も見えてない瞳
 でも笑わなきゃ
 楽しいふりしなきゃ
 和杷に申し訳ないもの…

 そう思った瞬間張り詰めた緊張の雰囲気が一転し、休憩時間となったのが解った。
 
「はぁ~~やっと休憩」
 どかっと無造作に恵美の横に座る少年。
「誰に会いに来たの?俺?あははは…」
 勝手に輪へ入るこの人の印象は《最低、変な奴》
「いえ…私は着いて来ただけだから」
 素っ気無く返答すると笑顔が消えて、冷たい表情に変わる。
「ふぅ~ん…じゃぁ君がなんかのコネあるんだ」
 彼はベラベラと和杷に嫌味を並べた
「ま、まぁね…私達自身もモデルとかしているんだけど、親がね…」
「へぇ~…じゃぁ、何?君は誰かのファンで君は興味が無いの?女の友情?はは…変なの~」
「別にいいじゃない。何も知らないくせに、アナタには関係ないじゃない」  
 恵美はその嫌な雰囲気に耐えられなくなり、席を立つ
「どこ行くの?一緒にいてよ。君みたいなのでもこんなむさ苦しい場所では華があった方がマシになるだろう?」
 彼は恵美の細い腕をつかみ微笑むが、それはきっとテレビや雑誌で見せるさわやかな物ではなかったと思う。
「離してよ!!悪かったわね《私みたいな華》で」
「はは…怒ったのか?」
 壁際に立っていた故に彼が覆い被さるように前へと立ち、尚且つ片腕は捕まれ彼のもう片腕は壁へと立てられてしまっている。
 取り囲まれた状態、超接近状態だ。
 だが臆する事無く目を逸らす事はしなかった。
「何がしたいの?」
「あん?別に…?」
「なら離して、私にも用は無い。帰ります」
 冷めた声、冷めた目に彼が悲しむ理由が解らなかった。
 だって自分の人生において相手の人生において、必要の無い人間なんて計り知れない数がいるはずだから。
 それに執着する理由なんて無い。
 なのに悲しい目。
 そして傷付いた表情が一瞬で舌打ちと共に変わる。

 牙を剥き出しにした獣のような顔
 刺々しさを剥き出しにし冷めた目

「じゃぁ帰ればいいだろ」
「…っそうします。離して」
「ちっ」
 突き飛ばしたいのは恵美で、強引に振り払いたいのも恵美
 なのにされたのは恵美だ。
 酷く不愉快。

「どうも、おじゃましました。失礼致します」
 彼には腹が立っても他には関係の無い事。
 部外者の見学を受け入れてくれたスタッフやタレントに深々と頭を下げて部屋を出た。
 それに慌てて続いたのは当然和杷。

更新日:2009-02-01 13:22:12

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