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第二章 『これから始まる』 1988.8~

 付き合いを承諾した遊園地はロケ地として使っていたそうで、恵美が本日帰ってくると解ったカズは和杷にあらかじめ手紙を託したのだそうだ。
 けど『恵美に渡すけど、あの子が来るって保障は無いよ』と告げると寂しそうに笑っていたと和杷から聞いた。

 それからもカズ等は忙しく中々逢えない日々は続いた。
 以前となんら変わりなく、時たま来ては少しして帰っていくか短い電話が来るかで付き合いを承諾した3月と以前と変わったのはキスをする位だった。
 それも、ただ軽く唇が触れるだけのキス。

 恵美はそれだけで幸せだった。
 逢えなくても心はどこかで繋がっているって思うから…

 春休みも結局発展の無いまま終わりGWに至っては忙しすぎてまともに寝ているのかさえ心配になる程過酷な日々を送っていた。
 それは恵美も同じで、母が長い休みに仕事を入れていたり、オファーが来たりもするのでそれなりに充実していた。
 恵美が少し大人になったと同時に脚光を浴び始めた時期でもある。



==1988年8月==

 出会ってから9ヶ月、互いに交際を承諾してから5ヶ月。
 カズ18歳の誕生日を迎えようとしていた。

 いつそんな暇があったのだろうか…
 夏はコンサートツアーがあり、日本全土を回っていた。
 更に密着テレビのようなのも同時に入っていた。
 
 いつもの如く強引な呼び出し、指定された場所は大阪!
 少し苛立ちもするがほれた弱みなのか従ってしまう。
 恵美は横浜で撮影をしていた為、出発出来たのは夜8時を回っていた。

 大阪についてすぐ指定された番号へ連絡をすると、数分で爆音が聞こえる。
 うるさい!そう思い目をやると…見たことの無い赤い車が。
「外車だ…」
 ポソリと小さく呟くと、恵美の携帯に着信が入る。
「ばぁか、こっちだ!乗れよ」
「え???」
「目の前にいるだろう?」
 プツと着信は途切れ、数センチウィンドウが下がる。
 恵美は目をパチパチしながら右側へ乗り込む。
「な、何?これ。何?なんて車?免許?免許はいつ?」
「本気でガキだよなぁ~普通久々の対面だ…質問の前にやる事あるだろうが」
「ん?」
 何も解っていないのか首を傾げると、カズは首を横にふり発進。

「これはコルベット、免許は暇を見て行ったら一発合格!凄いか?OK?」
 悪びれる事もなく笑い、素直に質問に答えてくれる。
 約束通りかどうかはさておき、車に乗せてもらった。
 それだけで嬉しかった。
「うん、凄い!尊敬~私なら免許受からないかもって思うもん」
「あはは、どんくさそうだもんな」
「あぁ~酷いなぁ~…私だってやる時やれるんだから」
「はは。お嬢には無理だな」
「えぇ?私お嬢じゃないよ~」
「じゃぁ、姫!あはは」
「うぅ~…けど皆言うんだよね。恵美は車の免許一生取らないでねって」
「あははは…それ俺も一票いれていいか?」
「どうしてよ~酷いなぁ…」
 拗ねているとカズはそっと笑い恵美の頭を撫でた
「俺が一生運転してやるから、それでいいじゃねぇ~か」
「う、う…ん。ありがと…」
「おぅ…」
 自分で言ってビックリしているように感じた。
 カズは少し照れ隠しで目線をズラシていた。


「どこ行くの?」
 時間も時間だった…当然の事ながら行き先が気になる所。
 人目の付くファミレスも入る事は出来ないのだ。
 というかそもそもファミレスは二人とも業界に入ってから行った事は無い
 常に監視されている牢人の気分なんだ…と、昔悲しく言っていた事を思い出したのだ。
「ん、ん~…ホテルでも行く?」
 ためらいながらも大胆な発言をするカズ
 無論恵美は思いもしなかった返答にむせ返る。
「…別に…自分らが泊まっているホテルだよ。みんないるし」
「あ、あぅ。そ、そだね」
 耳まで赤くなっているのが自分でも解った。
 どうしよう、恥ずかしい。勘違い?と、泣きそうにもなっていた。

「ふっ…ふふ、お前って大人っぽく見えるけど、やっぱりガキ」
「うるさいなぁ~4つしか変わらないんだよ?もう少しで14だもん」
 それ以上空気入らないぞ!という位頬を膨らませるが逆効果。
「はいはい」
 小さな子供をあやすかのように頭を撫でられる。
「も~バカ」
 軽くスネタふり。
 ここだけ見ていたら普通の恋人のようだ。

 ひと時の幸せ…それがなにより宝物になった。

「じゃぁ…向かうから…」
 何故か少し照れたような言い方。
 恵美は小さくうなずく。


 始まったばかりの二人…
 互いを知らなさ過ぎる二人…
 きっとこれから解り合えるよね…

更新日:2009-02-04 03:00:55

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