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第一章 『再会、そして…』 1988.3~

 和杷から受け取った手紙。
 封を開けられずそのまま暫く同じ席から動かないでいた。
 まるでマネキンのようにフリーズしていた。
 けれど、和杷が言い残した言葉をやはり解決する事も出来ず席を立った。


 恵美は家路へと交通機関を使わず歩いている。
 久しぶりの東京を歩きたかったのかもしれない。
 電気屋のウィンドウに並べられたテレビに映る彼ら。
 ショップの有線に流れる音楽…。
 何故か全てが耳障り、目障りだった。

 道行く同世代の女の子達も彼らのファッションを真似しており
 それさえもが目障りだった。

 突然の目眩と吐き気。
 思わず地面へと座り込む。

「助けて…カズ君」
 思わず口にした単語に驚き涙がこぼれる。
「苦しいよ…わたし…」
 自分の気持ちにようやく気が付く。
 もう止まらない…好きという事実が…
 認めたくなかった心の中…。
 『今なら忘れられる???』そんな馬鹿な考えをしていたなんてと自分を罵倒する。


 安定剤代わりになったのは、先程の手紙だった。
 慌てて封を切るがそこに書かれていた文字は、なんともいえない巨大な字で無理難題が書かれていた。

【○○遊園地にて12時まで待つ】

 どうしろっていうのだ?それらの単語以外思い浮かばない。
 今から帰って荷物などを置いてくるのも無理な時間。
 バスや電車も間に合わない。
 というより、恵美は過保護に育てられている故に一人でそれら交通機関を使った事がないのだ。
 仮に使うにしても、誰かが必ず用意してくれそれに言われた通り一緒に乗る。
 大抵はタクシーやロケバス等が迎えに来る。
 だからそれらの常識が無いのだ。

 タクシーを使い、はるか遠いその場所へと飛ばしてもらうように頼むと『今行っても開いていないよ?』と、当然の返答。
 そう、現在時刻は深夜10時を回っていたのだ。
 きっととっくに閉館している。
 仮に今開いているにしても、後数分で終わるのだろう…
「いいんです。お願いします」
「そう?お客さんがいいって言うなら行くけど」
「あの、12時までに…辿り着きたいんです…間に合いますか?」
「あぁ~…それなら大丈夫だよ」

 きっと行ったら自分は後戻り出来ないって思う。
 この募った想いが爆発して歯止めなんて利かないって思う。
 それでも逢いたかった。
 色々な構想する中、到着したのは0時10分前…
 当然ながら入り口は封鎖され、明かりはついていない。
 運転手は『ほらね。閉まっているでしょ』という顔をするが、恵美にはどうでも良かった。
 指定された金額を払い、車を降りる。


 やっぱりね…何かの間違いだったんだ。
 きっとこれは友達に沢山誤魔化す為に嘘をついた罰だね…
 一人になりたかったし丁度いいや。
 そう思った瞬間頭に何かが当たる。
 ポテっと地面に落ちたのは小さな紙袋。

更新日:2009-02-01 20:52:19

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