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危ない患者

 季節は真夏に差し掛かり、私はさすがに夏用の服を買おうと、休日、一人で町に出た。

 静は、例のヤバイ方の仕事で呼ばれていた。今回は、癌の摘出手術と聞き、私は同行をご遠慮申し上げた。それに関しては彼も理解があって、あっさり許可されたのだ。さすがに、生々しすぎる!

 っていうか、良いのか?本当に・・・。

 聞くと、ブラックジャックさながらに助手もろくに使わずに手術をやってのける御仁らしいが、患者に密告されたらさすがにヤバイだろう・・・。

 いや、法を犯しているのは患者の方も同じだから、そういうことにはならないんだろうな。むしろ、同業者に見つかった方がマズイらしい。

 やっと服を一着買って、お昼近くになり、ぼうっとウィンドゥショッピングをしていると、背後から不意に声を掛けられた。

「よう!奥さん、一人かい?」

 何故、奥さん、と声を掛けられて振り返ってしまったのか?
 明らかに知っている声だったからである。

「あ、こんにちは、小牧さん。」

 かなりの頻度で治療に通っている患者さんだった。一見、ヤクザ系のがっしりした体型の50代くらいの男性で、静はあまり来て欲しくなさそうなのに、なんだかんだと理由を付けてしょっちゅう予約を入れる人だ。

 何が楽しくてそんなに治療してもらいたいのか・・・。

「旦那は一緒じゃないのかい?」

 ふと周りを窺う小牧さんの様子に、私は笑う。

「静は今日も仕事です。」
「なんだ、そりゃ寂しいな。良かったら俺がお昼ごちそうしてやろうか?」
「まさか!」

 患者におごられてどうする!

更新日:2011-06-21 19:51:26

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