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旅人、来る

 ――大きな山には、大抵何かしらの伝説があるものだ。
 この日彼らが訪れたその山も例に漏れる事はなく、一つの大きな伝説を抱えていた。
 例外だったのは、それが伝説であると同時に、紛れも無い事実であると言う事か。
 “不死鳥伝説”。
 侵入者を拒む不気味な植物が鬱蒼と茂る樹海の中心に位置するその山の頂には、永遠の命の象徴である“不死鳥”が棲んでいるという……。

「……しかし、不死鳥の姿を見た者はなし、か。」

 樹海に一番近い町の図書館で情報を集めていた少年が、不死鳥伝説に関する雑誌の切り抜きに目を通しながら呟いた。
 彼の名はゼンカ。ある目的で不死鳥を探しに来た旅人である。
 その対面でテーブルにうつ伏せになっていたゼンカの連れは、彼の一言に頭を動かす事無く、声だけを上げた。

「何それ……。途端に信憑性が無くなっちゃったじゃない。」

 彼の名はミレーユ。外見は女にしか見えないが、一応男である。
 今回の旅には冒険家の先輩として同行していたのだが、ゼンカの予想外の行動力に振り回された彼は、すっかり疲れ切った表情を机にべったりと密着させていた。

「そう言うな。どうせ、あんまりアテにもしてねぇよ。」
「じゃあ何でこんなところまで来たのさ……。」

 ……ミレーユは一応男で、一応冒険家である。
 それなりの長旅に対する心構えとか、体力とかは備えていた心算だったのだが……ゼンカの計画した行き当たりばったり大冒険は、ミレーユの想定の斜め上を余裕で超えていたのだった……。
 確かに、この旅に重要な目的があるのは解っている。
 しかし寧ろ、だからこそあまりにも無計画過ぎる旅だったかも知れないと、ミレーユは今更ながらに反省するのであった。

更新日:2009-04-26 23:28:30

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