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〈隠された愛奴の烙印〉蝶々夫人、マダムバタフライ

自宅に戻ると、玄関先で娘の弥生が待ち構えていた。
玲子から、薫のヒーリングセッションがどうだったのか、少しでも早く聞きたくて、わざわざ実家まで足を運んだのであった。
「ママ、どうだった?薫さんって凄いでしょ」
「えっ、ええ、ほんとに凄かったわよ」
「それで、どんな感じだった?」
「手をかざしてるだけなのに、凄く気持ちよかったでしょ」
「そっ、そうね、とても気持ち良かったわ」
「もうびっくりしちゃった・・・」
「今日は、二人ともありがとう」
薫がどんなに凄いか、二人して盛り上がろうとしていた弥生にとって、玲子の態度はあまりにもそっけなかった。
一緒にキッチンで夕食の支度をしていても、どこか他人行儀で、弥生があれこれ聞いても、具体的な話を避けるかように、当たり障りのない曖昧な返事ばかりであった。
「もう、何がどう凄いのかを聞いてるのに・・・」
「ママったら、もういいわ、私帰る」
弥生はとうとう怒り出し、夕食をそのままに帰ってしまった。
(弥生、ごめんね)
(恥知らずの私を許して・・・)
玲子は、弥生の顔をまともに見られなかった。
人知れず娘の夫に恋い焦がれ、しかも浅ましい肉欲の虜となってしまった罪深い母親であるがゆえに当然であった。
実際、弥生が自慢するように薫のヒーリングは凄かった。
ただ玲子の場合、弥生が知る所の『癒しのヒーリング』ではなく、底知れぬ快感をもたらす『性感ヒーリング』であったのである。
玲子は夫を亡くしてからと言うもの、母親として娘の弥生を育てることに専念し、女としての欲情を十年以上固く封印してきた。
しかしその封印が、たった一回のセッションでもろくも崩れ去り、解き放たれてしまったのである。

実は、玲子には誰にも知られたくない秘密があった。
それは身近な人間が思い描く、貞淑で慎み深い上品な婦人という表の顔からは想像できないであろう裏の顔、まさしくもうひとりの玲子の存在であった。
そのもうひとりの玲子をあからさまに象徴するものが、玲子の肉体に人知れず烙印として刻まれていた。それは、飾り毛のない透き通るような白い恥丘に彫られた、極彩色の羽を広げた揚羽蝶の刺青であった。
全ての発端は、夫の耕蔵が実は企業舎弟と呼ばれるヤクザの一員であったことに起因する。その事実を玲子が初めて知ったのは、結婚して間もない頃であった。

更新日:2009-01-05 17:34:23

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義母 篠崎玲子 歪められた秘唇 R-18