• 9 / 51 ページ

シャルロットの序文

シャルロット・ロベスピエールの回想録は以下の序文によって始まります:

「私はかつて、全てを破壊する時間というものが、私の善良で不幸な兄の人格を捻じ曲げて世に知らしめた中傷をも消し去ってくれるものと思っていました。 私の二人の兄弟が謀殺されて33年となります。 一世代が過ぎたにもかかわらず、過ちは、真実に置き換えられるどころか、ますます増幅され、至る所に広がっています。
「私はこのように恐ろしい悪意の偏見を壊したいと心から望んでいました。 しかし、私の境遇に関心を寄せた人々が、何も言わないように、と忠告しました、というのも、人は多分私の証言を受け容れず、逆に私の偏った態度を糾弾するだろう、と考えられたからです。 私はその忠告に従ってきましたが、今では自分が間違っていた、と悟っています。 私は、人が、兄への攻撃を強める目的で、私が兄へ糾弾の手紙を送ったなどと主張、事実をゆがめていた、とは知りませんでした。
「弟もまた兄マクシミリヤン(Maximilien)のように中傷を受けたのかどうか、私は知りません; それについては一切耳に入れたことはありません; しかし私は彼が何ゆえ謀殺されたのかを知っています、それは彼が「自分は兄の美徳を共有する」と言ったからなのです。 この誓いの表明が彼の死刑宣告となったのです。 最も熱烈な民主主義者を死に追いやったあの男達の道徳とは一体どのようなものだったのでしょうか?
「彼らはその罪に満足せず、彼らの犠牲者達を墓石の彼方まで追跡していきました。 清廉潔白なアンコリュープティブル・マクシミリヤン(註:Incorruptible 廉潔の士)を殺害して後、彼の死刑執行人達はさらに攻撃を強め、私の哀れな兄を、母国においてのみならず、外国にまで、悪党として宣伝しました。 彼らは至る所に毒を流しこみました、誹謗文に、新聞に、伝記に、そして小説に。 かくして彼らは、大衆のみならず思想家達まで迷わせました。 その思想家達が、もし私の兄弟についての馬鹿馬鹿しくもおぞましい嘘の数々を解きほぐし、真実を発見しようとしたならば、確実に、虚偽による迷いから覚めたことでしょう。 悪人共は、善人達が真実を知ろうとする以上の努力を重ねて、嘘を振りまき普及させたのです。
「しかし私は、いつでも誤った事を簡単に受け容れてしまう多くの人々の中に、判断においてより慎重で、私の兄弟達への非難、彼らの敵達の悪意のみが根拠となっている非難の理不尽さについて考慮してくれる人が全くいない、などとは信じられません。
「真実とは、ある人々にとっては不快であり、また他の人々にとってはおよそ興味のないもの; それゆえに真実は何世紀もの間隠されたままになるのです。 私は心から言いたい、偏見を持たず真実の勝利のために身を捧げる人々にこそ栄光あれと!
「私の兄弟達をどす黒く塗りつぶし、彼らの真の意思をゆがめてしまう人間達がいるとしても、後世代の人々、著名な歴史上の人々の人格を決定する権利を持つ唯一の存在である後世代の人々は、彼らの無実の罪の汚名をそそぎ、彼らの視点からの事実を証明してくれるでしょう。 かたくなに誤った考えに踏みとどまり、私の兄弟達は今もって根強い非難に値すると思い込んでいる人々よ、せめてこのように考えてみてください、生涯を通じて美徳を貫いた二人の男が、そんなに突然悪者に変貌することはあり得ないはずだ、と。
「おお、我が兄マクシミリヤン! あなたの思い出に敬意を表することにより、あなたの正義の証明があらゆる誠実で徳高い魂に届きますように! あなたはこの世に生を受けた瞬間からつねに正義に徹し、賞賛に値する行動によって際立つ存在であり続けました。 あなたを知っている全ての人々はそれをよく認めており、はっきり証言することもできたことでしょう。 けれども現在に至るまで、誰一人として口を開きませんでした、何故ならばあなたの敵共が、それ程に大きな恐怖によって人々を黙らせたからなのです。 ああ、もしあなたの邪悪な中傷者の精神の中に、少しでも人間らしい感情が残っていたなら、彼らは痛恨の念にさいなまれることでしょう!

更新日:2011-06-05 15:42:12

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

シャルロット・ロベスピエールの回想録 - 和訳と解説