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2日目

挿絵 427*371

深い緑が重なり合って屋根を作る。

ぽっかりと空いた淡い水色背景には、薄い雲がふんわりと流れて行く。

鳥らは甲高い声でさえずりながら枝々を飛び交い、小動物の走り回る足や草木を分け、踏みつけるカサカサとした音に、仲間を呼ぶ奇声同士は和音を奏でて、今日も森の中は騒々しい。

薄く切り裂いた板を多重に貼りつけ、赤い煉瓦がこぼれ落ちそうな微妙なバランスを取る小さな小屋から、森の平和を打ち破る怒声が響いた。

つづいて人ひとりがようやく通れる程度の小さな扉からは、幅の広い大男がぎゅうと身を捩じりだすように外へ出る。

「ちっ、ボッタクル商店め」

ビーは憤然と森の小道を踏みつけた。森の中でひっそり積まれた積み木のような小屋を見上げて毒づく。

ここ近辺では貴重といえる、なんでもそろう冒険者ご用達店だが、商品が少ないくせに、どれもこれもバカ高い。しかも、肝心の薬草はなかった。

「いやあ、薬草なんか置いてもね、売れないんだよ」

赤の毛糸帽子に、鮮やかなキルトの服を身につける森の住人、店の主人はにやにやしながらビーに答えた。

その怪しげなファッションセンスに、皺を寄せた反り返る三日月の目は、街の冒険者ご用達店がここからどれだけ遠いかを知りつくした笑顔であった。

「普通はねぇ、パーティーに僧侶入れてるからねぇ。僧侶に治させちゃうからねぇ。あ、ポーションならあるよ」

と、これまたバカ高い薬瓶を並べたのだ。

美しくカッティングされた小瓶の中では、治癒魔法の溶ける透明な液体が、虹色にまたたいていた。

それを穴が開くほど見つめつつ、足元見るのもたいがいにしろ、と怒鳴り倒して出たところである。

「こんな田舎じゃあ他に店もねぇしなぁ」

ぶつぶつとつぶやきながら、ビーは森のゆるやかな小路を下る。

やや開けたその場所には、宿や酒場が立ち並び、ボッタクル商店とは毛色の違う日用品ばかりを扱う小さな店が数軒ある。

あれらの店で買えるのは、せいぜいが食品やらやわい布の服であることは既に調べ済みだった。

ビーは宿屋の前へ来るとその入り口前を素通りし、裏手の馬小屋へと向かう。

瀕死の重傷を負った仲間を担ぎこんだ場所がそこだった。馬の前を通り過ぎ、ビーはその向こう側へと歩みを進めた。

「エフ。具合はどうだ?」

こんもりと積まれた藁の中にエフがいた。

四人の似たような背格好の仲間に囲まれ、笑いあうその顔色はなかなか具合が良さそうだった。

下品な下ネタを昼から飛ばして、近くを通りがかった女戦士に軽蔑の視線を受ける。下ネタが口から出たなら、もう問題はないだろう。

「おう、ビーか。怪我ならばっちりだ」と、包帯の取れた額を見せた。

「買い物の方はどうだった?」

「いやあ、そっちの方はからっきしダメさ」

馬小屋には、ビーたち以外に多くの冒険者で賑わっていた。

ここはこの村きっての人気宿泊施設なのだ。

宿屋本館のほうは閑古鳥が鳴いているというのに、こっちの人気ぶりときたら、どこの高級スパかと見紛うばかりの超絶な込み具合ときた。

人の宿泊場なのか馬の宿泊場なのか、もはや見当もつかぬ有様だ。

馬と人が寝床を奪って押し合い、へし合い、馬が居心地悪そうに端の方へ追いやられていた。

タダで泊まれる馬小屋だったが、今度から少しお金をいただくという案は、冒険者組合の方から圧力がかかり、却下された。

冒険者の存在は、危険なモンスターを村にうろつかせないという警備員的な役割があり、ダンジョンの存在は、村の貴重な観光資源として重要視されているのだ。

更新日:2012-01-26 20:44:38

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