• 10 / 62 ページ

第9話 未知

挿絵 145*96

翌日、九鬼は広島空港に伊達を迎えに山陽自動車道を本郷インターで降りた。

羽田からの便は定刻通りに着陸し、間もなく伊達が難しい顔をして到着ロビーに現れた。

「お疲れ様です 課長」と伊達のバックを持った。

「ご苦労さん やはりこっちは暑いな」と伊達はハンカチで首筋の汗を拭う。

「蒸し暑さの度合いが違いますね」と九鬼も相槌を打つ。

駐車場のプリウスに乗り、エアコンを全開にした。

伊達は走り出した車が高速道路に乗った頃合いを見て、事件の話を切り出した。

「その後、山上正弘の他のDVDを見たのか」と尋ねた。

「いいえ まだ入手出来ていません ダビングを頼んでいますが当の医師からまだ連絡がありません」と九鬼は言った。

「ちょっと訊いてみましょうか?」と伊達を見る。

「頼む」

八幡PAで車を停車させ、九鬼は病院に連絡を取った。

「院長は出ていらっしゃいますか?」と電話に出た受付の女の子に尋ねた。

「それが今朝はまだ来ていません 遅れるとの連絡も無いので困っています」と困惑気味の事務員の様子だった。

「何かあったのか?」と助手席の伊達が訊く。

九鬼は院長の自宅の電話番号を教えられ急行することにした。

カーナビに電話番号で検索を入れると、目的地が設定された。

電話を入れたが留守電に切替わる。

九鬼は胸騒ぎを感じた。

「課長 ちょっと質問してもよろしいですか?」

「宇宙人の拉致の事だろ」と伊達が言う。

驚いた顔で九鬼は伊達を見た。

「課長は信じられるんですか?」

「・・・」と伊達が遠くを見る眼をした。

「俺はつい数年前までは、組織暴力団を相手に相当手荒い捜査をやっていたもんだ」

「しょせん人間が相手だから恐怖心といってもたかが知れてる」

「だが、ある事件を境に俺が遭遇した恐怖というものは全く未知なるものだった」

「君にも捜査の経験があるかもしれないが、人間の行為では理解しがたい殺人や失踪事件がたまにあるだろう」

「物理的に不可能な殺人方法、瞬間に姿を消す拉致被害者、多数の遺留品を残しながらも見つからない殺人犯」

「科学捜査が進む現代の鑑識学をしてもまだ未解決事件が山のようにあるのだ」

「つまり地球人の知識や常識の範囲で検証出来ない事件は、地球外の生命体が起こしているとしか考えられないと思わないか?」

「そうですが、そう片付ければ何でも簡単ですよ」と九鬼は納得出来ないと云うように呟く。

「追々、君にも判ることになるだろう」

その時、ナビの音声が目的地周辺に到着したと告げた。

更新日:2011-05-08 13:54:55

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

特命捜査官 (広島一家失踪事件)