• 4 / 12 ページ

2.ねこ・炬燵・うっとり

 身に堪える、寒い冬がやってきた。

 オレたち野良ねこにとっては、冬は死の季節だ。だが、つい最近まで飼いねこだったララの話を聞くと、飼いねこっていうのも命がけのようである。

「ウチじゃあないわよ、これはウワサなんだけどね」

 ララの話はいつも「ウチじゃあないわよ」から始まる。だから、それが本当の話なのかどうかはあやしいけれど、飼いねこの悲話はオレたちにとって、この上ない娯楽である。

「そのねこは、そりゃあもう、主人にかわいがられていたそうよ。それで、毎日のようにシャワーで身体を洗ってもらい、暖かいドライヤーで隅々まで乾かしてもらっていたの」

 オレたちは、その様子を頭に浮かべてうっとりする。暖かい心地よい風が、この冷え切った身体を毛先から暖めてくれるのだ。

 となりにいたミロは、オレに「みゃあ」と甘え、その冷たい身体をこすりつけてきた。ごわごわとした濡れた毛にオレは身震いをして「ムミャアッ!」と飛びはねた。

「でもね」

 ララはそこで、声をひそめた。

「ある日、その主人は急用ができてしまって、ドライヤーでゆっくり乾かす時間がとれなかったの。それで、手っ取り早く乾かそうとして、<デンシレンジ>という機械に入れたのよ。それは真っ赤な電気で一気に温める機械らしくて――」

「ああ、知ってる、知ってる」

 そう言ったのは、都会を転々としてきたトムという新入りのねこだ。

「それで、そいつはあっという間にあの世行き。それ以来、デンシレンジメーカーは『生き物をこれで乾かさないように』なんて注意書きを入れるようになったんだとさ。でも、それって、ウソらしいぜ」

 トムの言葉にララは気を悪くしたようで、ツンと顔をそむけた。

「人間ってやつは、自分に毛がないせいで、いろんな道具を考え出してる。この寒さをしのぐには、人間の家に忍び込むのが一番さ」

「忍び込むなんて、なんて野蛮なの」

 ララはトムにつっかかった。

「おいおい、あんた、いまの自分の立場をわかっているのかい? これからどんどん、冷えてくる。どうせ、あんたは気まぐれに家出してきたんだろう? いまのうちに、とっとと帰ったほうがいいぜ」

更新日:2009-01-03 17:55:31

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook