少し不思議な話をしよう

 むかぁし、むかし。
 そうは言ってもつい最近までのこと。
 人の間で神様は道徳や事象の説明の為のお話なんてものではなくどこにでもいる身近な存在で。
 妖怪は想像上の生き物ではなく、ちょっかいを出して来たり助けてくれたりしながら人と共存していて。
 けれどそんなこと、今では忘れ去られてしまった。
 現代人の間では、夜泣きが激しい赤ん坊は疳の虫のせいではないし、奇怪な行動をする娘さんは狐憑きではない。
 精神病、ストレス、幻覚。
 固い言葉が知識を埋め尽くしていく。想像の余地は消えていく。
 少し不思議はそんな中であり得ないの一言で流されていく。気づかれないままなかったことにされていく。
 けれども私のそばには彼がいた。
 科学的知識、常識という固い固い塀を作っていく現代社会の流れに乗らず、当り前のように少し不思議と共存する摩訶不思議なおじいちゃんが。
 そして彼のそばで同じように少し不思議と共存する人たちがいた。少し不思議に囲まれた世界は、時々ちょっぴり怖くって、時々ちょっぴり悲しくて、だけど何だか温かい。