• 作品を探す:

小説

携帯でもPCでも書ける!

  • 4 / 4 ページ

5月課題:5月病/ 『憂鬱な5月は』

「だからぁ、幸せにしたいんだって」

私は秋でいいって言ってたのにあいつがジューンブライドにこだわった結果、6月の空いている日を会場担当者に勧められ、あれよあれよと言う間に決まってしまった。
「こういうのは勢いだから」
なんだよ勢いって。思いきらなきゃ私と結婚できないってこと?
あれですか?清水の舞台からどうとかというやつ?
そんなあいつは、とにかく日取りが決まったことと婚約指輪を購入したことでいきなりのガス欠。
「あとはまかせた」とばかりに仕事へと逃げた。

桜が散り始めた4月。
こんなに大切な時間なのに、なんでこんなにバタバタしなきゃならないのよ!
11月頃でいいじゃない。それならもっとゆったりこの至福の時間を味わえるのに。

とはいえ式まであと2カ月。

いろんな事が棚上げされている中、とにかくまず出席者リストを作らなきゃ。
60名の小さな会場なので、新婦側30名のうち友達3人職場5人両親と兄弟…ってギリギリまで切りつめてる最中に、母親に頭を下げられて交流のない親戚2人を追加しなきゃならなくなった。
人の結婚式をなんだと思ってるのかしら。

あーでもないこーでもないと、まるで日本代表監督がワールドカップメンバーを決める時の心境で悩みに悩みぬいたベストメンバー30人。なんとか固まってきたなと思ってた時にもう一人の主役帰宅。

「あ、ごめん。俺のほうあと2人追加しといて」
「……なにを言ってるの?」
「取引先の社長がぜひ出席したいって言うもんでサー、お祝いもくれたし」
鞄から祝儀袋を取り出し、おお10万も入ってるぜとか言ってる。ノー天気に!
「それはあなたの30名から削ってよ、私の方はもう無理だから」
「それ無理。俺もう出席者に言っちゃってるし」
…こいつは私の苦労も知らないで!
「それよりさぁ、腹減ってんだけど」
「あんた食べてくるって言ってたじゃん」
「あれ中止。井上が腹こわしててさ」
「…私もさぁ、仕事してるんだけど。あ、家事は交代制にしようよ」
「それも無理。おれガスコンロ触ったことないもん」
「あ、あなたって一人暮らししてたんじゃないの?」
「食事はフル外食。たまにコンビニで弁当かパン」
「で、出来合いのものでいいからさ。コロッケとかサラダとか、スーパーに売ってるでしょ?」
「えええ!おばちゃんに交じってレジ並ぶのかよ~勘弁してくれよ」
「それくらいしてくれてもいいでしょ?子供出来るまでは共働きなんだし」
「じゃあさ、じゃあさ」ねっとりと肩に手をまわしてくる。
「子供つグッ…」太ももをつねってやる。あなたの稼ぎが今の倍になったらね。

昨日の晩はあいつの技に屈したわけじゃないけど、プラス2名を認めさせられた。
ただし、食事は当番制で、風呂掃除と洗車は彼。掃除と洗濯は私。そんなことを今更ながら決めてるところが私たちらしい。
それよりも引き出物…やっぱ選べるヤツでいいか…なんてボーっと考えながらキーボードを叩く。あぁいかん、仕事中だった。
ふと気配を感じてモニター越しに向こうを見ると、ただいま披露宴出席者当確ライン上にいる常務がこっちを見てる。わけもなく悪寒が走る。
「あ、私は挨拶が苦手なので歌にしてくれるかな」はぁ?まだ出席をお願いしたわけじゃないですよぉ
「…は、はぁ」曖昧に微笑む私…

あぁなんて憂鬱なんだ。式も披露宴もしたくないよ。身内だけで海外挙式する人の気持ちはよくわかる。
ふぅ…とりあえず母親にTEL
「あ、母さん。この前の親戚2人追加って、もうなんともならない?」
「……どうしたのよ、沈んだ声出して。問題発生?」はいはい、問題大ありです。
「うん、いろいろとね…」
「……わかった。母さん話しとくから。あんたは何も気にしなくていいからね」
「ふえぇん、ありがとぅ、お母さん」
「なに、あんた、マリッジブルーなの?」
「そんなんじゃないよう…また電話するね」


「おかえり~」ヤツの方が先だったか。
「ただい…うわ、なにこれ!」
テーブル一面にお惣菜の山。あなた二人分ってどれだけなのか理解してないの?どう見ても10人前はあるよ~はぁ、今週の食卓はお惣菜特集だな。
「…うちに帰りたくなっちゃうよ」
「なに、もうホームシック?」
「そ、そんなんじゃないわよ…ご、5月病よ、5月病」
「…まだ4月30日だよ?ちょっと早くない?」
そんなヤツを無視して、頬杖ついてお惣菜眺めていたら…

ポテトサラダに小さな白い旗が立ってた。
「幸せにするから」
そこに下手くそな字でそう書かれていた。


……うん、ありがと。
こんなヤツでも私が選んだんだよね。あ、選ばれたのかな。
いいよ、どちらでも同じだから。私たちはこれから一緒に生活するんだから。
私たちの憂鬱な時間はこの5月だけにしようね。

「さあ、食べようよ」

私は冷めたコロッケを大きな口で頬張った。

更新日:2011-05-05 15:43:26