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第6章 日曜日

 朝8時、今日はお休みらしく、静枝は起き上がらない。
 静枝を起こさないように、雛子はそっと着替えて、朝ごはんを食べた。
 ふと携帯電話を見ると、メールが入っている。
 亜沙子からだ。
「雛ちゃん、昨日はごめんなさい。雛ちゃんの気持ちを考えずに、一方的なことを言ってしまいました。もっとゆっくり考えましょう。雛ちゃんのお母さんの気持ちも考えながら……。だから、また、うちに遊びに来てください。待っています」
 謝らなくていのに……。悪いのはこちらなのに……。雛子は申し訳ないと感じると同時に、亜沙子の人柄の良さをしみじみと感じた。
「ありがとう。こちらこそごめんなさい。また、遊びに行きます」
 と、返信した。
 すると、5分もたたないうちに返事が来た。
「昨日あれから、新しいガラスビーズが届きました。とってもキレイよ♪ 今日、我が家には父がいるのでちょっとうっとうしいけど、私も母も一日中いるから、気が向いたら遊びに来てね」
 亜沙子さんのお父さんってどんな人だろうと考えながら、食器を流しに運んで水につけ、テーブルの上を片付けた。
 メモ用紙に『図書館に行って宿題をやってきます。本も読んでくるので、帰りは夕方になります』と書き、静枝を起こさないように、そっと家を出た。

 日曜日の朝の空気は、どことなく平日と違う。そんな気がする。
 雛子の住むアパートから東側へ5分ほど歩いたところにある図書館まで、雛子のお気に入りの道を選んで歩く。一戸建ての家が多く、庭がきれいな家が立ち並ぶ住宅街。駅の南側の高級住宅街に比べると見劣りがするけれど、雛子にしてみれば十分に素敵な家ばかりだった。
 冬に向かっているので花が少なく、少しさびしい風景になってはいるけれど、小学生の頃から歩きなれているこの道を歩く時は、なんとなくほっとする。
 図書館は雛子にとって特別の場所だった。同じ本を読むのでも、図書館が一番落ち着くし、集中できた。小学生の頃から、宿題もほとんど図書館でやっている。
 狭いアパートでするよりも、広々とした机でする方が、苦手な勉強も多少は、はかどる感じがした。だけど、昨日の特別クラスで出された宿題は、かなり気が重かった。
 雛子の学校は公立なので、本来土曜日に授業はない。あるのは、特別クラスという名の、隔週で行われる特訓クラスと補習クラス。これは、希望制で全員が受けるわけではなかった。

更新日:2009-06-01 05:53:52

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