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小説

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5本目:kodoku

「蠱毒(こどく)という言葉を知ってる?」
 屋上の縁で、友華は無機質な表情を浮かべた。笑いもせず、泣きもせず、怒りもしない、まるで魂の抜けたがらんどう。
「友華…やめなよ」
 私の口からは情けない。抜けた声しか聞こえなかった。
 屋上の真ん中で佇む私にフェンスを乗り越えた縁の友華が言った。
「安全地帯からは何を言ってもだめ」
 私は高所恐怖症だ。真ん中だって、吹きつける風に足がすくんでいる。でも、これから「自殺」をしようとしている友華を止めたかった。友達を失いたくなかった。
 震えた足でなんとかフェンスまでたどり着いた。でも、恐怖で四肢が震えあがり、地面に四つん這いになりながらフェンスを睨みつけ、それを超えることはできなかった。
「絵梨。やっぱりあんたも毒(どく)蟲(むし)だ」
「毒蟲…?」
 舌の根っこから出た声が、屋上に響いた。
「そう、毒蟲。さっき言った「蠱毒」っていうのはね、平安時代に、陰陽師とかの術師がやってた「呪」の一種よ。一つの瓶みたいな入れ物に、餓死状態寸前にしたムカデやらケムシやらサソリ。そんな毒蟲を一緒に放りこむの。そうすると毒蟲は中で共食いを始める。狭いビンの中で、最後の一匹になるまで永遠に…」 
 友華は手のひらをギュッと結ぶと、パッと空に向かって離した。
「似てると思わない?」
 友華が何を言っているか。私にはわかった。
 きっと。「自殺」の原因はイジメ。部活内の容赦のないイジメだ。
「部活っていう一つのビンの中に、「部員」っていう毒蟲がひしめいてる。仲の悪い奴らは嫌がらせのしあいっこをして、表面上仲好く見える奴らは影で潰し合って、私たちみたいな「本当の友達」も、一人が蟲に喰い物にされれば、もう一人は自分が喰われるのが嫌で、ビンの外へと逃げ出して、見殺しにする…。誰かが満足できるまで…そっくりよ。知ってる?「虫」には動物学上痛覚がないと言われているの。だから、他の「虫」の痛みが分からない…。だから痛みを与え続ける」
 友華の体は傷だらけだ。稽古とかこつけて、酷い仕打ちを受けた。容赦ない言葉を浴びせられて、心まで切り裂かれて…なのに私は友華を見捨てて、部活を去った。
私の罪悪感を見通してか、友華の口から苦笑が漏れた。
「…ごめんね!私、自分にイジメが飛び火することが怖くて…友華を見捨ててた!謝るから!だから…こっちに来て」
 震える足で立ち上がって、私は友華に手を伸ばした。友華はそんな私の手のひらを見つめて、薄く笑った。
「だから、言ってるじゃない。安全(ビン)地帯(の外)から何を言たって無駄だって」
 私はゆっくりと、フェンスを乗り越えた。足も歯も、ガタガタ震えて、両手をしっかりとフェンスに結びつけていた。
「へぇ、やるじゃない」
 友華の瞳が、驚きに見開かれた。それでも、どこか馬鹿にしているような表情だった。
「帰…ろう」
 震える言葉と、震える体。私は右手をフェンスから剥がすと、友華に差し伸べた。
「…そうそう、全てを喰らった最後の一匹はね。いよいよ呪いに使われるの。喰らった蟲の怨念をたった一匹の「虫」が抱え込んで、ビンから出されると、術師が呪い殺したい相手に送りつけられる…送りつけられた相手は…死ぬ」
 友華はため息をつくと、私の手のひらをそっと掴んだ。
「友華…」
「絵梨…」
 友華が微笑んでくれた。もう、がらんどうではない。
 握られた手が大きく外に振れた。それと同時に、友華が手のひらを離した。
 空間が歪む、それが、私の体が傾いているということだと気がついたのは、屋上の縁に、両手でしがみついている瞬間だった。
「友華!なんで…」
「蠱毒の「蠱」とは、全てを引き継いだ「虫」のことを言うの。私は「蠱」そのもの。私が、貴方を殺したら(たべちゃったら)…どうなると思う?事件は明るみになって、私をいじめていた奴らはマスコミにたたかれてぐちゃぐちゃにされる。今はインターネットっていう便利で残酷なモノがあるから、メディアで顔隠されてもダメ…住所も、写真も…ネットで流れる。中には自滅してくれる人もいるわぁ…「イジメのノイローゼで親友を殺害」マスコミは喰いつくわよ。私たちはもう高校生なの、誰も守ってはくれない…」

更新日:2011-02-10 21:21:35

百物語だぉん(´;ω;`)ガクブル!短編集MAX