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15本目:かくれんぼう

 どこにでもあるような街の、どこにでもあるような住宅街に、どこ

にでもいるような姉妹がいました。

 わがままな妹がいいました。

「おねえちゃん。かくれんぼがしたい」

「えぇ…。私これから友達と遊ぶんだけど」

 しっかりものの姉はしぶりました。

「お母さんに言うよ…」

「…わかったわよ」

 二人は腹違いの姉妹でした。今の二人の母親は妹の母親でした。母

親は血のつながらない姉を嫌っていました。少しでも気に食わないこ

とをすれば、晩御飯を食べさせてもらえません。妹はその事を知って

いて。いつも自分の思い通りに姉を動かします。

「おねえちゃんが鬼ね。目を瞑って十数えるのよ」

 姉にとっては妹となんて疲労の塊でしかありません。

「いーち。にーぃ。さぁーん…」

 こんな茶番劇。早く終わりにしよう。姉は薄眼を開けて、妹が隠れ

る場所を見つめていました。


 冷蔵庫。


 妹は輝かせた笑顔で不法投棄された冷蔵庫の中に入って行きまし

た。

 ふと、姉は思いました。このままほっといたら妹はどんなにみじめ

な思いをするだろうか。

 それは、義母に怒られてでも優越感に浸れるのではないか。

 姉は、妹を置いて逃げました。


 三日後。妹は亡骸として発見されました。


 妹は、冷蔵庫から自力で出ることができず、酸欠によって窒息死し

てしまったのです。

 もちろん姉は知っていました。でも、これはこれでいいのかもしれ

ない。

 冷蔵庫の前に、たくさんのゴミをおいて、発見を遅らせたのです。

 義母にだって怒られませんでした。義母が姉にこもりを任せていた

わけでもない。父親も義母を責めました。夫婦は離婚しました。

 姉はみんなに慰められました。妹を失ってかわいそうと…。でも、

姉は幸せでした。父親も取り戻した。妹も義母もいなくなった。

 姉は幸せでした。

 姉の人生はそれからは順調でした。学生のころ出会った男と結婚。

可愛い一人娘にも恵まれ、第二子も妊娠中。本当に。心から幸せな生

活を送っていました。

「おかあさん。かくれんぼがしたい」

 娘がいいました。母親は過去の経験から気のりはしませんでした

が、娘があまりにもしつこく頼むので、一回だけという約束で鬼を引

き受けました。
 
「いーち。にぃー。さーんっ…」

 でも娘が心配で、母親は娘がどこへいくのか薄眼を開けて見つめて

いました。

 すると、娘はなんのまよいもなく廃棄されていた冷蔵庫へと入って

行きます。

「あっ…」

 母親は駆けだすと。すぐに冷蔵庫を開けました。

「あぅー。まだ十秒経ってないでしょう」

「ごめんねー。おかあさん。貴方の事だきしめたくなって」

 ぎゅっ。と娘を抱き締める腕にも力が入ります。

「痛いよー」

「ごめんね…」

 娘はくすくすと笑っていました。母親は思いました。この幸せは絶

対に離しはしない、と。

「ねぇ、お母さん」

「何?」

更新日:2011-03-29 23:23:48

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百物語だぉん(´;ω;`)ガクブル!短編集MAX