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セクター2 エリスのサムス

<サムス>
今回起きた事件、それは……知能コンピュータとなっていたアダムの消失と研究員を辞めていたマデリーンの失踪という、私にはとても受け入れ難い2つの悲報だった。
アダムの件については、連邦がコンピュータウィルスの侵入によるものであると公式発表している。事実、連邦本部へのウィルス侵入事件はニュースとして取り上げられ、アダムに限らずいくつかの重要なデータが消失してしまったそうだ。
それだけなら私も割り切れたかもしれない……。
だがその翌日に、マデリーンの事が発覚した。
あまりのタイミングの良さに、私はB.S.L事件以上の不安を感じ取っていた。
私は仕事の傍ら単独で事件の調査を行い、裏に何かしらの陰謀が潜んでいる所までは突き止めた。やはり軍の内部に居る何者かが関与しているらしいのだが、それ以上の進展は見られなかった。
私の不安は更に募る……。連邦はアダムを初め重要なデータを犠牲にした上、マデリーンという今は普通の生活を送っている民間人にまで手を伸ばした。
そうまでして成したい目的とは一体何なのだ?
MB事件とB.S.L事件……。この2つの事件は、私の連邦に対する信用を著しく低下させた。そして今回の事件。……これで連邦を信用しろという方が無理だ!
それでも僅かな希望を胸に、キートン議長に直談判もした。
彼は連邦には数少ない、信用に足る人物だ。だが……

キ「サムス、君の疑問は尤もで私自身も同感だ。だが明確な証拠でも無い限り、議長と言えど議会に掛ける事は出来ぬのだ。」

それでも食い下がろうとはしたのだが、彼の苦渋の顔を見た瞬間……私にはそれ以上何も言えなかった。仕方無く私は事件の調査を続行する。
しかし、これだけやっても連邦から何のアクションも無いのは不気味だ。
……それだけ絶対の自信があるという事なのか?

カタカタカタカタ……
今日は仕事が無いので自宅に篭り、今までの情報をまとめてみる事にした。
だが最終的にはいつも同じ結論になってしまう……。確かな情報が少な過ぎるのだ。
関係者に尋ねようにも『軍事機密』と言われればそれで終わってしまう。
さっきの陰謀論も、議長に指摘されたように厳然とした事実を掴んでの結論だった訳ではない。諦めるつもりは更々なかったが、私の心には確かな手詰まり感が芽生え始めていた。
クッ!……私はこんなにも無力だったのか?
そんな折、自宅のチャイムが鳴った。居留守を使おうとも思ったが、気分転換の為に出てみる事にした。
ア「よぉ、プリンセス。」
サ「アンソニー!どうしたのだ、一体?」

私はアンソニーにお茶を出し、彼の近況を尋ねた。彼のジョークを交えたトークは、私の鬱積していた心を和ませてくれた。……のも束の間だった。
ア「俺の事よりよぉ!プリンセス、お前さんの噂は色々聞いてるぜ?例の事件を調査してるんだってな。」
まさかアンソニー……いや、そんな事は無いと思うが……
サ「……初めに断っておくが、説得は無駄だぞ。」
ア「説得?馬鹿言っちゃいけねぇ!俺もあの事件には納得がいってねぇんだ。」
そうか。それなら……
サ「では何の為に来たのだ?」
ア「今日から三日程非番でよ……。俺もちょっくら、お前さんの手伝いをしようと思ってな。」
サ「それは有り難いが……コンピュータの扱いは得意ではないのだろう?」
ア「椅子に座って機械を弄るだけが調査じゃねぇだろ?俺達は現場の人間だ。情報は足で掴まなきゃよ!」
サ「それはそうなのだが……」
私が反論しかけると、アンソニーは両手を挙げて宥めるジェスチャーをする。
ア「実はよ……」
アンソニーは携帯端末を取り出し、メールソフトを起動する。
ア「事件の前日にこれが届いたんだ。」
差出人は……アダム!?
『近日中、私の身に何か起こったらマデリーン女史を訪ねろ。』
ア「大将らしい、短い本文だぜ。」
アンソニーの言葉に、私は初めて希望を見い出した思いがした。
ア「その時はミッションで別の惑星に行っててよ……。大将の事だから大丈夫だと思って、あんま気にしてなかったんだ。すまねぇ!」
サ「ミッション中なら仕方無いさ。だが、肝心のマデリーンまでも……」
ア「これは俺の勘なんだけどよ……彼女もこの事態を想定して、俺達に何らかの形で伝言を残してるんじゃねぇか?」
つまり、マデリーンの家に行けば手掛かりが掴めるかもしれないって事か……。
サ「確かに……。ただ、1つだけ気になっている事がある。」
ア「何だ?」
サ「何故、アダムは私に報せてくれなかったのだ?」
ア「そう言やぁ、そうだな……。ま、俺達が考えてもしょうがねぇ。何せ……」
サ「『大将の判断に間違いは無い』か?」
ア「そういうこった。」

更新日:2010-10-01 23:50:51

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