• 31 / 33 ページ

異世界の街

由良にひきつられ該当の灯りが照らす住宅街の道を私と棗君は歩いた。
見知っている住宅街の道に思えるが、何か違和感と言うのを感じる。
見上げれば、いつものような星空が、私の視界を埋め尽くし、遠くに見える電車は、まぎれもなく中央線なのだ。
だが、何か違う。
私の中の違和感は、いつも参考書を買う西荻窪の商店街の書店で確信に変わった。
私の確信など気にもせず、由良の奴は書店の店頭に並ぶ少年キ○グを手に取り立ち読みを始めた。

「おいおい!少年キ○グは休刊になっただろうが!何であるんだよ」

私の力強い疑問に、雑誌を持ったまま呆けた表情で由良は一瞬の間を置いてから答えた。

「だから、この世界に来たんじゃないか!少年キ○グの連載が読みたかったんだよ。僕はね」

そう言うと、パラパラと雑誌をめくっては楽しそうにしていた。
僕と棗君は、由良の立ち読みの間、何もする事が無いので、店内を散策した。
見慣れた参考書、見慣れた雑誌、見慣れた単行本の並んだ棚は、私がアルバイトの帰りに立ち寄るいつもの書店だ。

「おーい、そろそろ行こうぜ」

雑誌の立ち読みが終わったのか、人を待たせておいて、勝手に呼び出すふてぶてしい態度の由良に、私は多少の怒りを覚えたが、とりあえずは言う事に従うことにした。
微妙な違いであっても、この世界は、私の知る日常とは違うのだ。
それは棗君にとっても同じだ。
由良の目的が、休刊になったはずの少年キ○グの立ち読みだけだったとしても、そのことは変わらないのだ。

私は、わが愛すべきボロアパートの押入れの中に入ってから、奇妙な冒険に旅立っているのだ。
その事を、今ここで、初めて自覚した。

更新日:2010-08-02 23:22:00

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook