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変態と呼ばれる男

僕は至って普通な、都内の高校に通う高校生。

本当に、普通の高校生なんだ。 世界中に溢れている高校生と何の変りのない、ごく普通の高校性なんだ。
だけど、世間の人は、僕を変態と呼ぶ。 僕は決して変態じゃないのに、周りはそれを認めてくれない。 ただ、人よりちょっと不幸で、ドジなだけなのに。

 ある日、とある街で毒入りこんにゃくを全て回収し、一つの街を救った人がいるという噂が学校中に広まった。 友人は皆、お前も少しは見習えよと声を掛けて来た。
 違うんだよ! 僕はいつもわざとやってるんじゃないんだ! ただ、銭湯に行けば男湯と女湯が定時に入れ替わるところで、それを知らずに男湯に入ったつもりが女湯だったり、空がキレイだなと思って、上を見上げてカメラを構えていたら、女の子がいっぱい居て、スカートの中を盗撮してると勘違いされたり、そういう誤解がいっぱい積み重なっているだけなんだ。 僕は決して変態ではないんだ!
 でも、何を言っても、誰一人として信じてくれなかった。 学校中の女子が僕を嫌っていた。
 本当に、わざとじゃないのに。
 僕も英雄になりたい。 英雄と呼ばれて、皆から好かれたい。 だけど、思いとは裏腹に、今日もたまたま開けた教室が臨時女子更衣室になっていて、僕は変態と蔑まれた。

 いつの間にかクリスマスの季節になっていた。 もちろん、変態と呼ばれる僕と一緒に過ごしてくれる女子は一人もいない。 何の予定も立たず、終業式の日が来た。 学校では、サンタクロースが本当に現れたという噂が流れていた。 僕は、サンタクロースになりたいと思った。 そうすれば、たくさんの人に好かれて、きっと幸せになれるのに。

 終業式も終わり、予定のない僕は公園のベンチで一人、時間を潰していた。 家に帰ったってすることは何もないし、予定も何もない。 特に何をするでもなく、ベンチから公園を眺めていた。
 そのとき、一人の女の子の姿が目に飛び込んできた。 まだ小さい5歳くらいの小さな女の子だ。 女の子は目に涙を浮かべながら、キョロキョロと辺りを見回していた。
 迷子なのかな?
 僕も辺りを見渡してみた。 でも、母親らしき姿はない。 僕は恐る恐る少女に近付き、声を掛けた。 やっぱり迷子だった。 僕は戸惑ったが、一緒に母親を探すことにした。
 母親を探す道すがら、女の子はこの公園には母親とよく来るという話をしてくれた。 ということは、家は近所に違いないと見当をつけ、周辺から探してみることにした。 辺りを歩き回ってみるが、一向に見つからない。 しばらくすると、女の子は喉が渇いたと訴えた。 そこで、僕らは公園に戻り、水飲場へと向かった。
 水飲み場にはすぐに到着したものの、水飲場の噴出口は意外と高くて、僕は女の子を抱えて飲ませることにした。 女の子は抱えられると嬉しそうに蛇口を捻った。 すると、勢い良く水が飛び出し、女の子はビショビショになってしまった。 12月の寒空でこの状態でいたら、風邪を引いてしまう。そう思った僕は、女の子に服を脱いでもらうことにした。 そして、僕の上着を着せようと考えていた。
 しかし、女の子は服が濡れたことで泣いてしまい、自分では服を脱いでくれなかった。 そこで、僕が脱がせてあげることにした。 女の子はわんわん泣きじゃくっている。 僕は宥めながら、女の子の服に手を掛け、まさに服を脱がそうとしたその時、急に視界が開けた。 何が起こったのかわからない僕は、必死で状況を把握しようとした。 さっきまで、女の子が目の前に居たはずなのに、僕の目の前には、赤みがかった空が広がっていた。
 ああ、僕は仰向けになっているんだ。
 すると、何か硬い物が僕の右手に当たった。 男の声が頭に響く。
「幼女暴行の現行犯で逮捕する」
 え?逮捕?
 僕は急に意識がしっかりとした。 辺りを伺うと、僕を二人の警官が押え付け、一人はぼくに手錠を掛けている。
女の子は、母親らしき人に抱かれ、泣きじゃくっている。
「ち、違うんです! ぼ、僕は暴行なんてしようとしてないんです!」
 必死に抗おうとしたが、がたいの良い警官は僕を軽々と押え付ける。
「わかった。わかった。話は署で聞くから」
 警官はそう言うと、僕をパトカーの中に連れて行こうとする。
「違うんだ!違うんだよ!」
 僕は叫び続け、抵抗する。 ふと、同級生の女子が目に入った。
「さ、佐奈川さん!良かった!助けてよ!」
 すると、佐奈川さんは、軽蔑した目を僕に向け、こう呟いた。

「………変態」

更新日:2010-06-05 02:19:42

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