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slow start

春一番が吹き荒れた翌日、イギリスに旅立つ若者ひとり。


出発ロビーに集まるさまざまな人種・旅立ち・見送り・家族・

ビジネスマン・・・

そんな雑然とした様子を眺めるのが清四郎は好きだ。

手に持っているコーヒーはすでにぬるい。



搭乗案内を聞きながら、ゆっくり歩き始める。

ふと月明かりに浮かぶ野梨子の寝顔を思い出した。



 (これからは・・・他のことを考える余裕なんてありませんね。

  そう、できるだけ忙しい方がいい。できるだけ・・・)


それでも清四郎の頭の中では、自分を呼ぶ野梨子の声がいつでも再生できる。



コートのポケットに入れた手が何かに触れた。

それは使いこんで柔らかになった革の定期入れ。

更新日:2010-06-14 17:20:31

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