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第1話

 男はライフルを手にしつつ、身を屈めながら素早く足を進めていた。

 男の周囲に広がる森は、殺意を持った閃光が無数に飛び交い、その中を茶色の戦闘服を着た仲間達が飛び込んでいく戦場だ。そこは、閃光に貫かれた者から次々と倒れていく、弱肉強食の世界。下手に立とうものなら、すぐに閃光の餌食になってしまうだろう。
 しかも、男が相手にしているのは『普通の敵』ではない。男の視線の先にいる敵は、人間でありながら『得体の知れない力』を使って攻撃してくるのだ。
 手にしている武器は銃だけでなく、剣や盾といった原始的なものが多く、鎧を纏っている者もいる。
 普通に考えればそのような武器で現代の武器に敵うはずなどないのだが、それら全てが『得体の知れない力』を持っており、こちらの攻撃を無力化されたと思えば、一気に白兵戦に持ち込まれる。その威力も現代の武器を超えたものだ。
 味方達はすぐにライフルを持ちかえ、剣を使って応戦する。このような敵が相手では、銃だけでは到底戦えないのだ。敵は人間の姿をしていながら、『人間の範疇を超えた存在』なのだから。

 男は乱戦状態の中で、近くの木に身を潜める。そこからライフルを構え、敵に狙いを定める。このような状況で闇雲に飛び出すのは危険だと判断したからだ。
 目の前に捉えた敵に向けて、引き金を引く。
 すると、狙いを定めた敵を銃弾が貫き、敵は青い血を流して倒れた。人間とは違う血の色に驚く暇もなく、すぐに次の敵に狙いを定める。

 だがその時、1人の敵がこちらに向かってきている事に気付いた。手に槍を持っている。
 男はすぐに応戦しようとしたが、敵は槍を地面に突き刺したと思うと、そこから地面を割るように炎が地面を走り、こちらに向かってきた。
 危険を察知した男は、すぐに木から離れる。すると男が先程まで実を潜めていた木は、一瞬にして炎に包まれてしまった。すぐ反撃しようとライフルを向けたが、炎を放った敵は既にその場にはなく、離脱していた。
 男は唇を噛んだ。まさか炎を放って、身を隠す場所ごと燃やそうと考えるとは。敵の攻撃はまさに『何でもあり』だと思わずにはいられない。

 その時、男のすぐ横に何かが飛んできたと思うと、大きな爆発が起きた。
 反射的に身を伏せる。爆発の衝撃で吹き飛ばされた土が、こちらにも降り注いだ。その攻撃によって、何人かの味方が倒れている。
 どこか今までとは違う攻撃だ。男は、今までと様子が変わった事を感じ取った。

「おい、気をつけろ!! 敵に1人やばいのがいる!!」

 それを示すかのように、誰かの声が聞こえた。
 すると正面の森が開けた場所から、真っ直ぐ向かってくる敵の影が現れた。
 反射的に男はライフルを構えて撃つが、敵は動きが素早く、銃撃が当たらない。

「はあああああああっ!!」

 影は、叫び声を上げながら味方の中に飛び込む。その手には、自身の背丈ほどはあろう長さを持つ大剣が握られていた。
 味方はすぐに反撃しようとするが、剣によって次々と切り倒されていく。猛獣のごとき、激しい攻撃だ。そして、重い大型の剣とは思えないほど振る速度も速い。
 味方は反撃する間も与えられず、次々と剣の餌食となっていく。反撃した者も僅かいたが、それもことごとくかわされ、反撃した者は狙いを付けられて他の味方と同じく剣の餌食となってしまった。
「おおおおおおっ!!」
 更に、雄叫びと共に敵の剣が黒く光ったと思うと、剣を振るのと同時に黒い三日月形の衝撃波が放たれ、離れた味方までもそれによって一刀両断されてしまう。遂にはあまりの強さに恐れおおのき、武器を捨てて逃げ出してしまう者もいた。
 たった1人の敵に、味方が次々と悲鳴を上げながら倒されていく光景を目の当たりにした男は、戦場に慣れていたとはいえ戦慄を覚え、攻撃する事も忘れてしまい、ただその光景を黙って見つめる事しかできなかった。

「な、何なんだあいつは!? なんて強さなんだ……!!」
「奴はバケモノか!?」
「悪魔だ……紛れもねえ悪魔だ……!」
「いや、そんなレベルじゃない……奴は『破壊神』だ……!!」

 味方の悲鳴にも似た声が、次々と聞こえてくる。
 そうしている間にも、味方は次々と剣の餌食となっていく。

 そして遂に、その敵の周りに味方は誰1人としていなくなった。あるのは味方の屍だけだ。
 そして男は、その中心に立つ『破壊神』の姿を、初めて見る事ができた。

 黒い甲冑で上半身を包み、背中からは黒いマントをなびかせ、手には黒味がかかった刃の大剣を持つ、漆黒の戦士。
 顔ははっきりとは見えなかったが、それは若い女の顔のようにも見えた。
 ただでさえ恐るべき力を示したその戦士が女である事は、尚更味方を震え上がらせたに違いない。

更新日:2010-06-25 21:09:42

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