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悲しい再会

その連絡は突然でした。
『麻由美さんと言う方を病院に搬送しました』
救急隊からの連絡。車の事故だったそうです。

その日の崇義君は仕事がお休みでした。
僕を連れて近所の公園に遊びに行く予定だったのですが、
いざ出かける時になって、僕が癇癪を起したように泣きわめき、
どんなにあやしても泣きやまなかったので、
出かけるのを中止した矢先の電話でした。
『麻由美ちゃんが…?』
傍で電話を聞いていた仁美ちゃんは、
聞かなくてもどんな連絡だったのかは分かったそうです。

急いで病院に駆け付けた崇義君たちでしたが、間に合いませんでした。
亡がらにすがって泣いていた崇義君。けれどハッと気づきました。
『子供は?子供はいませんでしたか!?』
救急車で運び込まれたのは麻由美さんだけだったそうです。

『行ってあげて。こっちの事は私が何とかするから』
仁美ちゃんに言われてタクシーに乗り込んだ崇義君。
仁美ちゃんは「何とかするから」と豪語したものの、
僕はいるし、何をしていいんだかさっぱり分からず、
実家に連絡をして、麻由美さんの訃報を報告するとともに、
救援を求めました。
すぐにお母さんと吉村さんが駆けつけて来てくれました。

大変だったのは崇義君です。
アパートに行って見ると部屋は電気は消えて真っ暗でした。
同じアパートの住人を訪ね歩き、どこかに預けてないか聞いて回りました。
その度に耳を疑うような事ばかりが入って来ました。

「家にいると思うわよ」
「かわいそうに…いつも一人でほっぽっとかれていてね」
「男の人が何人か出入りしてたようだけど…その度に部屋から追い出されて、
ドアの前にじっとしゃがんでいたわよ」
「こう言っちゃなんだけど…虐待…あったと思うよ。
男の怒鳴り声がして、凄い声で泣いてる時が何回もあったから」

妹の知らなかった一面を垣間見て、眩暈を覚え始めていた崇義君。
取りあえず、人に預けてたり保育所などに預けている話はなく、
家で放置されてる可能性が高いとの事でした。
けれどチャイムを鳴らせど、ドアを叩けど中からの返事はなし。
『近衛?いるんだろ?開けてくれないか?お母さんが大変なんだよ!』
外から呼べど叫べど反応なし。
留守だった大家が帰って来たので事情を説明して、
鍵を開けて貰い中へ入りました。

更新日:2009-12-27 00:14:42

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