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小説

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第三話 記憶

これが、久遠の部屋か…。

男の子の部屋って、もっとゴチャゴチャ散らかってるのかと思ってた。
整理整頓されたこの部屋は、必要なもの以外は何も置いていないようだ。

それにしても、自分がさっき会ったばかりの男の子の部屋にいるなんて、なんだか不思議な感じだわ…。

『コンコン。』

ドアを、ノックする音が聞こえた。

…自分の部屋なんだから、そのまま開けてくれていいのに。
久遠の律義さに、思わず苦笑する。

そしてドアがゆっくりと開き、久遠が顔を覗かせた。

「オレンジジュースで、いいかな?」

そう言うと彼は、ガラスのテーブルの上にグラスを二つ、置いた。
そして久遠は私と、向かい合わせに座った。

「ありがとう。気を遣わせて、ごめんね?」
私がそう言うと、彼はにっこりと微笑んだ。

…ホント、なんて綺麗な男の子なんだろう。

その瞬間、壊れそうなほど高鳴る、私の心臓。
やっぱり心の鍵を掛けたままにしておいて、正解だったわっ!

思わず目を奪われそうになったけれど、なんとか彼から視線を逸らした。

「じゃ、何からはじめよっか?」
私が聞くと、彼は思案顔に変わった。

「…取り敢えず、心に鍵を掛ける方法、ってのを知りたい。
 最近、ますます音が大きくなってきてるみたいで…。
 …もう、本当に限界なんだ。」

久遠は、とても苦しそうに言った。
そんな彼の姿を見て、私の胸も激しく痛んだ。

「…分かったわ。じゃあ、まず、目を瞑ってみて?」
すると彼は私の言葉に従い、そっと目を閉じた。

「それから、真っ白な空間を想像するの。」
彼は、無言のまま、私の言う通りの想像をしているようだった。

「次に、何か部屋の、ドアの様なものを思い浮かべて。
 これは、あなたの『心のドア』。
 そしてそのドアに、鍵を掛ける様子をイメージしてみて。…どう?」

そう言うと、久遠はうまく想像できたのか、こくりと小さく頷いた。

私も彼に言ったのと同じ様に想像し、久遠とは逆に心の鍵を解放する。

『どう、聞こえる?』

心の中で話しかけてみたけれど、彼からの返事はない。

「いま私、心の中で久遠に話しかけたのよ?」

私が言うと、彼は驚いたように瞳を開け、こちらを凝視した。

「最初はすぐに疲れちゃうから、短時間しか駄目だと思うけど。
 練習すれば、徐々に長い時間でも出来るようになると思うよ?」

彼はまだ、信じられない、というような顔をしたまま、私の事を見詰めている。

そこで私は、彼に提案してみた。

「今度は逆に、そのドアのカギを開けるところを、想像してみて?」
すると彼はまた瞳を閉じて、そのイメージを試み始めた。

『…今度は、聞こえる?』

私が心の中で話しかけると、彼はゆっくりと瞳を開けた。
そして彼も、心の中で返事をした。

『…ああ、聞こえるよ。』

頭の中に、彼の声が甘く響く。
私の心臓はその瞬間、再びドキンと跳ねあがったのだけれど、平静を装い、心の中で言った。

『おめでとう、久遠!第一段階は成功よ!』

彼は嬉しそうに、子供みたいに笑った。
私も自分の事みたいに嬉しくて、笑った。

更新日:2010-07-13 13:12:02