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小説

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第二話 心音

座席は既にいっぱいだったので、ドアの付近に並んで立った。

どこで話そうか、と聞かれて、思わず彼女を部屋へ誘ってしまった。
最初はその能力に気を取られて、全く気がつかなかったけれど、彼女は俺の好みの、ストライクど真ん中で…。

さらさらと風になびく、艶やかな長い黒髪。
肌は、まるで陶磁器のように白く、滑らかだ。
鼻は少しだけ上を向いているような気もするが、気になる程ではない。
唇は、薄くも厚くもなく、ちょうどいいくらい。

そんな彼女の顔で最も印象的なのは、その瞳だった。
眉の少し下で切りそろえられた前髪の下から覗く切れ長の瞳は、大きくはないけれど強い輝きを放っている。

しかしその見た目以上に、今時の女の子には珍しい、清純そのものな反応に心魅かれた。

何が俺が、ちょっとでも邪(よこしま)な事を考えたら、だ…。
邪な気持ち、全開じゃないか…。

でも彼女にはこんな気持ち、気づかれる訳にはいかない。

人生で初めて会った、同じ能力を持つ人間。
しかもその能力の制御方法を知っているらしき彼女に避けられるようになったら、目も当てられない。
幸い今彼女は、心の鍵とか言うのを掛けているみたいだから、俺が何を考えているのか、気付いていないようだ。

そこで俺は、漸く気づいた。
…そう言えば俺達は、お互いの名前すら知らない。

「俺の名前は、日高 久遠(くおん)。
 久しいに遠いで、『くおん』だよ。君は?」

俺が聞くと、彼女はふわりと微笑んで答えた。

「…素敵な、名前。私の名前は、酒井 ゆらら。
 平仮名で、『ゆらら』よ。」

「ふうん。ゆららか…。いい名前だね。
 俺の事は、久遠でいいよ!」
そう言うと俺は、彼女に向かって微笑んだ。

「その制服。確か、S女学院のだっけ?
 有名な、お嬢様学校だよね?」

上品な紺色のブレザーに、白のブラウス。
スカートは、深い緑と、青のチェック模様のミニ丈で。
清楚なその制服は、彼女によく似合っていた。

「う~ん…。私は別に、お嬢様ではないけどね。
 久遠はその制服、T高校よね?そっちこそ、進学校じゃないの!」

俺は常にその学校の、成績トップなんだけど。
そんな事で彼女との間に妙な距離が出来るのは嫌だったから、俺はただ曖昧に笑った。

電車はすぐに、目的の駅に到着した。
だから俺達は二人一緒に、電車を降りた。

「歩いて、すぐのところだから…。」

その言葉を聞くと、彼女は穏やかな笑みを浮かべ、俺の後に続いた。
程なく家に到着したので、ここだよ、と言うと、彼女は目を見張った。

「…久遠の方こそ、めちゃめちゃお金持ちじゃないっ!
 何よ、この豪邸はっ!?」

確かに、無駄にでかい家だよな。
…父と二人で暮らすには、広すぎる。

「ま、俺が建てたんじゃないから。さ、どうぞ?」
そう言うと俺はドアの鍵を開け、彼女を中へと案内した。

「…お邪魔します。今日、お家の人は皆、お留守なの?」

ゆららが聞いた。

「…うん。もともと俺と父の、二人暮らしだからね?
 …父は仕事人間だから、深夜にならないと戻らないんだ。」

事実をそのまま告げたのだけれど、彼女はとても申し訳なさそうな顔をした。
…今更そんな事、全然気にしてないんだけど。

「別に、気を遣わなくていいよ?」
俺はそう言うと、スリッパを彼女に手渡した。

更新日:2010-07-13 13:10:52