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その瞬間、私は思わず彼の事を、突き飛ばしてしまった。
「そんな事するなら、やっぱりやめるわよっ!?
…もう二度と、私に触らないでっ!」
男の子に免疫のない私がそう叫ぶと、彼は慌てて手を離した。
「ご、ごめんっ!嬉しくて、つい…。」
そう言った彼は、まるで母親に叱られた子供のような表情で。
何だか可愛いな、なんて思ってしまった。
彼にはきっと悪気なんかなくて、ただ同じ種類の人間に出会えた事と、この能力の制御方法を教えてもらえるかもしれないという事が嬉しかっただけなのだろう。
…彼の行動に、深い意味はない。
私は彼にこのドキドキを悟られない様、更に心にロックを掛けた。
「もう、いいわ…。
でもこれからは、気をつけてね?」
平静を装い、彼に言った。
彼はその言葉を聞き、安心した様にコクリと頷いた。
「さて。じゃあ、どこで話そっか?
この辺り、私はあまり詳しくないんだけど…。」
私が聞くと、彼も思案顔に変わった。
「…ごめん。俺も慌てて降りたから、よく分からないや。」
顔を見合わせて、ほとんど同時に二人して、プッと吹き出した。
一頻(ひとしきり)笑った後、彼は言った。
「じゃあ、俺の部屋へ来る?ここから電車で、2駅の所なんだけど。
…他の人がいる所じゃ、まずいよね?」
彼の提案は、尤もなものだけれど。
…でも流石に、男の子の部屋に一人で行くというのは。
「あっ、心配しないで?
絶対君に、手を出したりしないから。
もし何かやったら、遠慮なくぶっ飛ばしてくれていいよ!
それに俺がちょっとでも邪(よこしま)な事を考えたら、君には分かるだろう?」
彼は私の心を見透かした様に、そう言った。
心に鍵を掛けていても、私の表情で彼にはすべてが伝わってしまったみたいだった。
…恥ずかしい。
でも、考えてみたらそうよね?
こんなにカッコいい男の子が、何も好き好んで、こんな地味な女に手を出すだなんて、有り得ないわよっ!
「…いいわ。」
私がそう答えると、彼はまたホッとした様に笑った。
そして私達は、再び電車に乗った。
更新日:2010-07-13 13:10:20