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小説

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第九話 鈍痛

それからも私達は、鍵を使って、イメージトレーニングを続けた。
彼はそのあとも、毎日の様に家に私を呼び出して、様々なアドバイスを求めた。
だけど私は、彼が能力をコントロールできる様に日々変わっていく事以上に、久遠と一緒にいられることの方が嬉しかった。
…もちろんそんな事、彼に告げられる筈がなかったのだけれど。


ある日私は、久遠に言った。
「ねぇ、久遠。…あなたに、逢わせたい人がいるの。」

何故か彼は何も答えてはくれなかったのだけど、私は続けた。

「あのね、きららが…。
 私の双子の妹が、あなたにとても逢いたがってるの。
 …駄目かな?」
見上げると、久遠は驚いた様な表情で私の事を見詰めていた。

そう言えば、彼には私の双子の妹、きららについて話した事は一度もなかった。
彼との会話の中で、両親や親戚の事は話しても、彼女について私は触れることが出来なかったから。

思えば私が好きになった人は皆、きららに心奪われた。
幼馴染の祐樹君も、小学校の同級生、一馬君も…。

だから久遠も、きららに恋をしてしまうんじゃないかと思うと、とても怖くて。
…きららから何度も催促されていたのに、卑怯な私はどうしても彼に切り出せなかったのだ。

「ゆらら、双子だったんだ…。知らなかった!
 いいよ。俺も、ゆららの妹、見てみたいしね?」

彼はにっこりと微笑み、答えた。
その瞬間、私の胸はまた、ちくりと痛んだ。

「…よかった。
 明日はちょうどお休みだから、久遠の家じゃなく私の家に来て欲しいんだけど…。
 迷惑じゃなかったら、駅で待ち合わせにして貰っても大丈夫かな?」

「OK!じゃあ、明日は何時にしよっか?
 でも、今までのお礼も兼ねてランチを御馳走したいから、少し早めに逢えないかな?」

…お礼のため、ね。

優しい久遠の言葉に、再び胸がちくりと鈍く痛む。

「そんなの、いいわよ。」

私はそう言ったのだけれど、彼に強引に約束をさせられてしまった。
…ホント、そんなに気を使ってくれなくていいのに。

あまり私に、優しくしないで?
私は久遠と違って頭が悪いから、勘違いしてしまいそうになる…。



翌日の正午前、私と彼は家の近くの駅で待ち合わせることにした。
駅に着くと彼はもう到着していて、私を見つけると優しく微笑んで手を振ってくれた。

パーカーにジーンズというラフな格好をしていても、彼はとても目立っていた。
私はただのお礼だと言われたのに、何を着ていくかとても迷ってしまい、昨夜は寝るのがとても遅くなってしまった。
結局何を着たらいいのか決められなくて、シンプルなグレーのワンピースに黒のハイヒールという、とても地味な格好になってしまった。

きららと二人で出掛けた時みたいに、周囲の視線を感じる。
思わず小さく溜息をつくと、久遠が心配そうに聞いた。

「…どうかした?」

だけど私は平気な振りをして、なんでもないわ、とだけ答えた。







更新日:2010-07-13 13:22:51