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小説

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第五話 共犯

「じゃあそろそろ、送っていくよ。」

久遠が、言った。窓の外はもう、暗くなっている。
時計を見ると、その針は夕方の六時を指していた。

私は大丈夫だと言ったのだけれど、駅までは送るからと、久遠は一歩も譲らなかった。
…そんなに私は、頼りない子供に見えるのだろうか。

彼は心の鍵を閉じているのか、何を考えているのか全く分からない。
私も彼との会話に、ちょっとドキドキしている自分に気付かれるのがなんだか怖くて、再び心に鍵を掛ける。

駅に着くまでの間、私達は他愛もない話をした。
昨日見たテレビの事とか、学校の事。
好きな音楽や、最近読んだ小説の話。

駅までは本当に、あっという間だった。

「そう言えば、友達にする、言い訳の事だけど…。」
久遠が、言った。

そっか!
…そういえば、すっかり忘れちゃってたわ。
ちゃんとあの二人に対する言い訳を、考えておかないと。

明日はルナと雪菜の二人から、猛追求にあうであろうことは想像に難くない。
そう考えて私は、思わず小さく溜息をついた。

「そうだね、何がいいかな?」

「俺がゆららに一目惚れして、無理やり連れ去った、っていうのは?」

その言葉を聞いた私は、思わず目を見開いた。
彼の表情を見る限りでは、決して冗談で言っているのではない様だ。

私は思わず、彼から目を逸らした。

彼が私に、一目惚れって…。
…逆ならまだしも、そんな事、絶対に有り得ないじゃない。

…よかった、心の鍵を、しっかり掛けておいて。

「それにこれからも、色々教えて欲しい事があるから、二人で会う機会も多くなると思うし。
 …二人が付き合ってる、っていう事にして貰ったら、駄目かな?」

今まで男の子と一度も付き合ったことのない私には、その提案は素直に飲み込めないものだった。
でも彼の言うことも、一理ある気がする。
思わず眉間に皺を寄せて、うーんと考え込んでしまった。

「…ゆらら?」
不安そうに、久遠が声を掛けた。
…その顔はまるで、捨てられた子犬みたい儚げで、悲しそうだった。

「…仕方ないなぁ。じゃあお礼に、お茶くらい奢ってよね?」
私は彼にこのドキドキを悟られない様に、そしてなるべく不自然にならない様に気をつけながら、答えた。

「…よかった、共犯者になってくれて。」
ホッとした様に小さな声でそう呟くと、彼は子供みたいに笑った。

それから私達は、携帯番号とメルアドを交換した。

「じゃあ今晩、メールするから。」
駅の改札口で、当然の様にそう言った彼に、私の心臓はまたどきんと跳ね上がる。
私は何も言えなくて、無言のままただ曖昧に笑い、手を振った。



家に着くと、私は漸く心の鍵を解放した。
…はぁ。今日は何だか、とっても疲れちゃったな…。
リビングのソファーに腰を掛け、ぼんやりと今日の出来事を思い出してみた。

『久遠…。』

思わず心の中で彼の名前を呟いたその瞬間、テーブルにポン、とペットボトルのミネラルウォーターが置かれた。

「久遠って、誰?」

隣に私の双子の妹、きららが腰を掛けた。
私が思わず驚いてそちらを向くと、彼女はクスクスと笑って言った。

「そんなに驚かなくても。…ゆらら、心の声、駄々漏れ~!」

更新日:2010-07-13 13:15:21