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小説

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第四話 再生


あの日の事を思い出すのは、本当に久しぶりだった。
…母さんが俺の事を捨てて、姉と二人で出て行った、あの日の事を。

「今の、君にも伝わっちゃったんだ…?
 母さん、俺の事、化け物呼ばわりして。
 …その日のうちに姉と二人で、家を出て行っちゃったんだよね。」

心配そうに俺の事をじっと見詰める、彼女の視線に耐えられなくなって、敢えてにっこりと微笑んだ。


父さんは俺の能力に薄々気がつきながらも、その事に決して触れようとはしなかった。
…多分、関わり合いになるのが面倒だったんだろう。

ただいつも彼は、事あるごとにこう言った。

『久遠、普通にしておいてくれよ?』

…普通って、なんだよ?

そう思ったけれど、俺は敢えて聞かなかった。
聞くと俺が、普通ではないという事を、思い知らされそうで。
…それが、とても怖かった。

父さんにまで捨てられたら、俺はもう生きていけない。
そう思ったから。

そう、俺は大丈夫。
これまでも、一人でやってこれただろう?


しかし、次の瞬間。
ゆららは俺の側に駆け寄り、抱き締めてくれた。
…触れないで、と言ったのは、彼女の方だった筈なのに。

「大丈夫っ!大丈夫だよ、久遠っ!
 …私は、全部分かってるから。だから、大丈夫っ!」

ああ、俺は大丈夫だよ?

…本当は、そう言いたかったのに。
俺の頬を、一筋の涙が伝っていった。

『ありがとう…。』

俺は心の中でそう呟いて、彼女の背中に腕をまわした。
今まで鉛でも詰め込まれたように重かった俺の心が、その瞬間ふわりと羽根が生えたように軽くなった。

自分でも気がついていなかったのだけれどきっと、俺は誰かにそう言って貰いたかったんだ。
彼女は心を解放している筈なのに、他に声は聞こえてこない。
だからこれは、さっきの発言が、彼女の本心そのものだという事なのだろう。

そこで俺は、もう一度心に鍵を掛け直した。

同じ能力を持っている筈なのに、どこまでも清らかな心を持つゆらら。
俺はこんなにも純粋な彼女の事を、どんなに卑怯な手を使ってでも手に入れたいと思ってしまった。

ゆららが、欲しい…。
でもそんな俺の醜い心を、彼女には絶対に知られたくなかった。

彼女の側にいれば、俺は変われるだろうか?
穢れ切ったこんな俺でも、人の心を信じる事が出来るように…。

俺は彼女の背中にまわした腕に、更に力を込めた。
するとゆららは戸惑ったように俺の顔を見上げ、途切れ途切れに言った。

「くる、し…。久遠、力、強すぎだよ?」

真っ赤な顔をして、更に俺を見つめる彼女。
息苦しさからくるその表情に、俺は思わず勘違いしそうになる。

危ないっ!
こんなところで彼女の信頼を、失う訳にはいかない。

「ごめんっ!ゆららがあんまり可愛いこと言ってくれるから、つい…。
 あれ、顔が真っ赤だよ?」

わざとふざけて言うと、彼女の顔は益々赤くなってしまった。

…そっか。彼女、男に免疫、なさそうだもんな。

そんな彼女の反応を見て、俺はちょっと嬉しくなってしまった。
思わずふふん、と俺が笑うと、彼女はむっとした表情に変わった。
そして少し唇を尖らせて、ゆららは絶叫した。

「何よ、馬鹿にして~っ!!!
 私、本気で心配してたのよ~っ!?」

それから彼女はまた、俺の事を力いっぱい突き飛ばした。


更新日:2010-07-13 13:13:37