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小説

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プロローグ


その日俺はいつもの様に、仲の良い友人2人とともに、満員電車に乗って下校中だった。

…仲の良い、友人。
それはあくまでも、表面上だけの関係だったのだけれど。

俺は自分が普通の人間でないが故、必要以上に他人と親しくなれないでいた。
そう。俺が、ある能力を持つ為に…。

俺は物心ついた時から、他人の心の声を聞くことが出来た。
それを望む時も、望まない時も…。

いつでも、どんな時でも、それは俺の頭の中に響き渡る。

「好きです、日高先輩!」
『この人と付き合っていたら、周りに自慢できちゃうもんね!』

「お前、本当に頭イイよなぁ…。」
『でもさぁ、久遠。
 その見た目で勉強まで出来るなんて、はっきり言ってうぜぇよっ!』

…正直こんな声、聞こえない方が幸せだと思う。

何の因果でこんな能力を持って、生まれてきてしまったのか…。
神様というものが本当に存在するのであれば、俺はそいつを問いただしたい。

はぁ…。
思わず零れ出る、溜息。

その時俺達が立つすぐ後ろから、女子高生が大声で話をしているのが聞こえてきた。

「ルナのそのピアス、可愛いねぇ♪」
『…まぁでも、可愛いのはその、ピアスだけなんだけどさ。』

「ありがとうっ!実は、彼氏から貰ったのぉ♪」
『あの男、好みじゃないけど、プレゼントのセンスだけはいいのよね…。』

…あまりの会話のくだらなさと、聞こえてくる醜い心の声に吐き気がする。
過去17年間、こちらの意思に関係なく聞こえてくる他人の声は、最近、ますます音量を増してきたように思う。
このままじゃ俺、そのうち気が狂うかも知れないな…。

ぼんやりとそんな事を考えていたら、別の少女の声が聞こえてきた。

「ホント、いいよねぇ。ルナの彼氏、優しくて!」

しかし脳内に響いた彼女の心の声に、俺はぎょっとした。

『確かにあなたの言う通り、くだらない会話だけどね。
 でもねぇ、そんなに他人の心の声が聞きたくないなら、聞かなきゃいいじゃない?
 全く、被害者ぶるんじゃないわよ。乙女の会話を、盗み聞きしておいてっ!』

その声に反応して、思わず後ろを振り返った。

「私も、彼氏ほし~い!」

言いながら、長い艶やかな黒髪を靡かせて、一人の少女がこちらを振り向いた。

『勿論そんなの、嘘だけどね?
 そんな馬鹿男、願い下げだわ!』

『…聞こえるのか?』

俺は意識を集中させ、彼女に心の中で話し掛けた。

『…ええ、聞こえるわ。
 まさかこの能力を持つのが、世界に自分だけだとでも思ってたの?』

そして唖然とする俺を尻目に、少女は悠然と微笑んだ。



更新日:2010-07-13 13:07:46