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第1章-2 もののけ姫もどきの物語

もののけ姫もどきの物語」
 前回お話しした磐城平泉文化で「北の王国」の残照があるという点を指摘しました。さてここで平泉文化が伝播する以前の磐城国の物語をご紹介しましょう。古墳時代の物語です。


 古墳時代、地方の有力豪族たちには国造(くにみゃっこ)という官職が与えられました。建許侶命という国造もその一人です。手元にある資料のいずれにも振り仮名がないため、タテノモトマロノミコトとし、長いのでモトマロと略して呼ぶことにします。

 子供のころに読んだ物語です。

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 昔、磐城国に、山のように大きな猪(いのしし)がおりました。赤毛で覆われているため、赤猪(あかいの)と呼ばれ恐れられる邪神(まがつかみ)すなわち悪魔です。赤猪は障気をまき散らし田地を荒しましたので領民はなすすべもなく逃げまどうばかりです。

 そのころ、国造に任命されたのがモトマロです。モトマロは赤猪討伐のため、都に使いを送って腕に覚えのある狩人十名を雇って赤猪討伐隊を編成しましたが、赤猪の障気は凄まじくおよぶところではなく、たちまち全滅させられてしまいました。

 モトマロは、意を決し自ら討伐隊を編成して、赤猪に立ち向かいます。戦いは幾日にも及びましたが、ついにモトマロの矢が赤猪を仕留めます。赤猪の屍は山となり、後世、その山はアカイノノ岳をつめて赤井岳(あかいだけ)と呼ばれるようになったとのことです。



 赤井岳は標高605mあり、水石山(みずいしやま)、湯ノ岳(ゆのだけ)と並ぶ磐城三山とよばれる霊山となっており、薬師寺がたたずんでいます。赤猪の屍が山となりそこに大和朝廷が国教として導入した寺を置いて封印しているかのような形は、古い神を信奉する先住民と土着勢力を打倒して仏教を信奉する新しい支配者との関係をあらわしているかのようにも感じます。

 第6話に登場した源義家が勿来の関を越えて、磐城国に入国したとき、まず鮫川を渡り、藤原川を渡り、最後に夏井川を渡るのですが、その度に鮫が襲いかかってきて矢で仕留めるというエピソードがあります。鮫は邪神なのでしょう。邪神は中央からやってくる英雄に抵抗する東北の土着勢力とみることができます。東北における英雄とは、侵略者という一面もあるのです。

 磐城国の領域は時代によって大きくなったり小さくなったり、陸奥国に編入されたりしていますが、もっとも範囲が広かった時代は、田村地方や相馬地方も磐城国に属していました。田村地方や相馬地方からは砂鉄がとれ、大規模な製鉄遺跡も発見されています。宮崎アニメの代表作の一つ『もののけ姫』の舞台は飛騨付近を連想させます。主人公の少年は先住民蝦夷(えみし)で、製鉄の里に厄介になり、夜襲をかけてきた、もののけ姫に出会います。もののけ姫は狼やら猪の「神」を奉ずる少女でした。

 ダイダラボッチ伝説は磐城国のすぐ南隣の常陸国『風土記』に記されたもので、モトマロも磐城の国造というよりは、常陸を拠点に磐城を支配下に置いた大和朝廷側の将軍の一人だとする見解があります。

 アニメにおける猪の神は、罠に掛けられ邪神に転じたり、火縄銃で武装した烏帽子(えぼし)一党の一斉砲火をうけて滅ぼされていますよね。赤猪や哀れ。

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更新日:2009-10-18 16:47:28

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