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うたをうたおう


彼女には、声がなかった。
ただ一本、バイオリンが傍にいた。

楽器から響く音色は彼女の声そのものだった。



ある時。
彼女は国と国の戦いに巻き込まれた。
バイオリンは銃弾で蜂の巣にされた。
その数ヵ月後、それを抱く左腕を永遠に失った。



国と国との戦いは終わった。
彼女の戦いの始まりだった。


世が落ち着きを取り戻した時、
人々は口々に「彼女は不幸だ」と言った。



けれど彼女は、誰よりも自由だった。



自由を求めて、曲を作った。
あふれ出す思いを、詞に込めた。


たくさんの人がその曲を奏でた。
たくさんの人がその歌を歌った。


たくさんの人たちの心の中で、
彼女は自由におしゃべりを楽しんでいた。

更新日:2009-07-14 22:46:41

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