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唯一神

女は考えていた。まるで自分を目的地に運ぶ事が仕事だ、と言わんばかりに動く床の上で
「私、死んだ筈よね?」
自問する。そして、確かに女は凶弾によって死んだ。
それは間違いない事実だ。相棒の裏切りとも取れる行為で女は世を去った筈なのである
すると、答えをくれてやる。と、床は目的地に着いたのか、動きを止めた。

その場所は、王に謁見するための部屋のように、広く、威圧的だった。
玉座のようなものがあり、その手前に階段。
その階段が地位を知らしめる為の境界線のように、来客者との距離を広げている。
そして、いきなり玉座から一人の男が忽然と現れ、女に言った

「はじき出された者、よく来たな」

女は、ここはどこなのか、あなたは誰なのか、そもそもどうして生きているのか、
聞きたいことは次から次にあふれ出て来たのだが、驚きと、相手の威圧感により、言葉が出ない
「なんだ、やっぱり意識は持ってないのか・・・」
残念そうに男は呟いたあと、女に背を向け、手を天に向けて、指を鳴らす仕草をしようとする
―チラッ。
何故か名残惜しそうに、一度女を見やる男。
なんか、その姿は、誰にも構ってもらえなくて、寂しそうな小動物のような雰囲気をかもし出している
その行動を見たとき、相手からの威圧感は完全に無くなって、女はついに声を出せた
「ここは、どこなんですか?」
男は目を丸くした。何にそんなに驚いたのかは知らないが、声が途端に明るくなって、質問に答える
「おぉ!驚いた!久しぶりだな!意識の持った奴に出会うのは!!」
否、質問には答えなかった。ただただ、驚きと喜びの言葉を上げたのみである
「意識を持った奴?何言ってるの?」
説明しなさい、と高圧的な女の態度にも男は屈した様子は無く
寧ろ、ますます嬉しそうに話し出した

「いやー、こんなに幸せなことはいつぶりだろうか!よしよし、1から説明してやろう!俺は神だ!ただ神といっても、オルフェウスでもガイアでもカオスでもタナトスでもニュクスでもポセイドーンでも阿修羅でも天照大神でも毘沙門天でもオメテオトルでもトナティウでもアッラーフでもない。それらは全て人間が作り出した偶像なんでね。神は俺一人。故に俺は云わば唯一神。世界を作ったのも俺。ほいでもって、キミは現実世界からはじき出されて今、神の前で裁きを待っている身。でもねー、神っていうのも案外楽じゃないんよ。何より死ねない。あ、それはキミらも同じか。言い方を変えれば、転生できねーの、コレ。キミらはまた人生を歩めて新たな刺激とかもあると思うけど、俺にはそんな楽しみ無いわけ。だって、もう億の単位でこの職についてるんだもん。そら飽きもきますわ。話が脱線してしまったな。失敬。そう、大抵は意識を失ってこの場所に来るんだけど、たまにキミみたいな例外があってさ、意識を持ったまま来る人がいるんだよね。久しぶりだから本ッッッッ当に嬉しいよ!だって意識無い奴ら顔に生気が無くて怖いんだもん。意識があればそんな事は無いし、なにより雑談だってできちゃうじゃん?もうそれってこの上なく幸せなんだよね。だって見てみ?このなーんも無い部屋。退屈しのぎなんてキミらの世界を覗き見る事だけだぜ?いっそ神なんて辞めちゃおうかなー、死のうかなー。なんて思っても、死ねないんだよねー。自殺だって試みた事あったけど、死ねないのよ。本当なんで俺、神なんてやってんだろ。馬鹿らしい。あ、そうそう。意識がしっかりしてるって事は、あいつのお気に入りなんだな。ふむふむ。うん?お気に入り?なんでこんなとこにおるんじゃ!?あれ?っていうか意識持っとる!?おいおいおいおい、俺が見てないうちに向こうで何があった?ちょちょちょ、待っとれ、そこでちょっと待っとれ。な?あぁ!今更見ても遅いよねー、ですよねー。あぁぁ、肝心な所見忘れてもうた・・・。最悪だわ。あ、そうか。俺記憶探れるじゃん。ちょ、娘。近うよれ」

・・・なんなの、コイツ・・・。

更新日:2009-10-24 00:00:11

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