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『落ち着いてレイン! 日頃失敗ばかりしてるんだから、今日ぐらいは役に立たなきゃ!』
 すっかり目が覚めて、高鳴る鼓動を感じながら、わたしは自分で自分にそう言い聞かせつつ廊下へ出ました。そしてさっきのカードキーを使って部屋をロックすると、列車の進行方向の逆に向かって走り始めました。
 隣の6号車に移ると、そこはうって変わってものすごい騒ぎになっていました。後方の7号車・8号車から避難してきた乗客たちが、乗務員に叩き起こされたそのままの格好で、我先にと6号車まで押し寄せて来たのです。転んで泣き出している子供の声や、若い女性の悲鳴も聞こえてきて、コックさんや他の乗務員たちはそれを誘導するのに必死です。
「すみません、通してください!」
 わたしはその中をかき分けるようにして、何度も人にぶつかりながら、また押し戻されながら、必死に人の流れに逆行していきました。
 7号車に入り、目指す9号車が近づくにつれ人の数は減ってきましたが、代わりにどんどん不安と緊張が高まってきました。相手はテロリスト。いくらカオス先輩がついているとはいえ、簡単に拘束できるほど生易しい相手ではない筈です。
 しかし、「いや、きっとカオス先輩ならどんな相手でも…」と、わたしはそう思うことで不安を抑えつけました。そう、カオス先輩はわたしの知る限り最強の鉄道警察官なのですから。
「…あっ!」
 目的の9号車のドアを開けた瞬間、わたしは廊下でうつ伏せに倒れている一人の同僚隊員を発見し、思わず声を上げました。彼は私服姿でしたが、わたしはその人をよく知っていました。
「大丈夫ですかジェームズさん! しっかりしてくださいっ!」
 そばにかけ寄って、彼の背中をゆすって声をかけると、彼はゆっくりと目を開きました。良かった、生きています。
「…ああ、レインか。俺は大したことない。膝を撃たれただけだ。」
 わたしとそう歳の離れていない彼は、苦しそうに右足の膝を抑えながら答えました。見ると傷口のズボンは血で真っ赤に染まっています。辺りの壁にはたくさんの銃痕や電子剣によるものと思われる傷、床には何十発分もの薬筴が散らばっていて、惨たんたる有様でした。
「待っててください、今止血しますから…!」
 わたしは急いでポケットからハンカチを取り出し、それを彼の出血している脚の付け根に巻いてきつくしばりました。彼はそれを見ながら、
「すまないレイン。それより早く後ろの車両に行ってくれ。敵は一人だが、かなり手ごわい奴だ。今カオス先輩たちが追って行ったが、このままでは乗客にも被害が及ぶかも知れん」
「わかりました!」
 話を聞いてわたしは少々たじろいでしまったのですが、それでもすぐに立ち上がって、再び後方の車両目指して走り始めました。

更新日:2009-09-28 03:02:44

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超時空物語RAIN 第一部 わたしの仲間たち