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無邪気な魔女

 エイミールのアパルトマンの前で、突っ立ったまま建物を見上げている一人の少女が居ました。
 でもその少女は、周囲の人たちとどうも様子が違っています。
 薄ピンク色のジャケットに黒のミニスカート、という服装はずっと清潔ですし、幼な顔で、大きくていたずらっぽい目元が印象的な顔立ちも、実に生き生きとしていて血色がいいのです。肩には動物の模様の描かれたバッグと、手にはパンパンに膨らんだ旅行鞄、そしてなぜか彼女のものにしてはかなり大き目の青い傘を持っています。
 背は随分小柄で、年齢も若いのでしょう。ヘアスタイルは、肩に届くか届かないかほどの長さの髪を、ヘアピンでとめただけで、少し子供っぽく感じられます。首に下げている金色のペンダントは高価なものらしく、明らかにこのスラムの人ではなさそうでした。
「間違いない、ここや。やっと見つけたで。」
 少女はその手に持っている紙切れとアパルトマンの番地とを見比べて、嬉しそうに声を上げました。言葉は英語でしたが、その発音にはなんだか聞き馴れない妙な癖がありました。
 彼女はアパルトマンの階段をはしゃぐようにして駆け上がり始めました。何かチャラチャラ音がすると思ったら、腰に下げているウエストネックレスの音です。六芒星(正三角形を二つそれぞれ上下逆に重ねた模様)の入ったメダル型で、彼女が髪に付けているヘアピンにも、それと同じデザインが刻まれてあります。
 一気に四階まで上ると、水たまりの廊下をバシャバシャ走って、そして着いた部屋は308号室――つまり、エイミールの右隣の部屋でした。
「サンマルハチ。この部屋やな。今時こんなキーで開け閉めせなあかんやなんて、古くさいもええとこやけど、贅沢はゆっとられへんしな。」
 少女はブツブツ言いながら、持っていた銀色のキーを差し込んでドアを開けました。中はエイミールの部屋と同じ造りになっていますが、がらんとしていて家具は一つもありません。
「わお…! 悲しゅうなるくらい、めっちゃボロクソや。」
 中に入って周囲をザッと見回してから、彼女はまず窓の方へ歩いていきました。
 やはり窓ガラスは割れて無くなっているので、そこらの床は降り込んだ雨水で池ができています。それになぜか、破れた新聞紙やいやらしいヌード雑誌が投げ込まれていて、ちぎれたそれがたくさん散らばっています。
 彼女はちょっと溜息をつきましたが、すぐに明るく手を打ちました。

更新日:2009-09-30 12:14:58

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超時空物語RAIN 第一部 わたしの仲間たち