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エイミール

 部屋の中はとても殺風景でした。
 大して広くもない部屋に、テーブルセットと食器棚、それにベッドが狭苦しく置かれてあって、服などはそれらのあちこちに無造作にかけられているだけ。部屋のコンクリート剥き出しの壁が、飴色に変色しているところを見ると、この部屋の住人はかなりのヘビースモーカーのようです。
 ジャッキーはテーブルのそばに歩いて行って、タバコに火を点けながら窓の方に目をやりました。
 窓の一部はガラスの代わりに穴のあいたポスターが張られていて、夕日の光がその穴から室内に舞う埃を一直線上に照らし出し、その先のテーブルに散らかったウイスキーの瓶を鈍く反射させています。
 ジャッキーは一つしか無い椅子に腰かけ、広場から流れてくるのどかな音楽を聞きながら、ぼんやりとタバコの煙をくゆらせていました。
 時計なんて上等な物はこの部屋にはありません。日が西の丘に沈みかけた頃、やっとここの住人が帰宅しました。うす汚れたコートとハンティング帽に身を包んだ三十歳前後の男の人です。不精髭をはやして、中肉中背で、やや神経質そうな目つきをしています。
 彼はベッドに横たわって目を閉じているジャッキーの姿を認めると、持っていた買物袋をテーブルに置いて、ポケットから拳銃を取り出しました。さっきの“アニキ”たちが玄関に落していったものです。
「やっぱりおまえか。俺の処には来るなと言った筈だぞ。」
 男はコートを脱ぎながらまずそう言いました。きれいなドイツ語です。ジャッキーはゆっくりと目を開けました。
「このタバコの匂いですぐにわかった。これはおまえのじゃないな。どうしたんだ?」
 男――エイミールは、持ってきた銃をポンとベッドのジャッキーの足元に投げました。ジャッキーは起き上がるとこちらに顔を向けて、
「上級軍曹。あんたは誰かに狙われている。」
 ジャッキーもドイツ語で答えました。エイミールは一瞬面食らったような顔をしていましたが、すぐにフッと笑いました。
「確かに、俺は狙われてるさ。勝手に軍を抜けると言い出して、いつ中将から口封じの刺客が送られてくるともわからねぇ。もしかして、おまえがそうか?」
 彼は苦笑しながら、袋からパンとハムと、そして水とウイスキーのボトルを取り出してテーブルに並べました。ジャッキーは仰向けになるとまた目を閉じて、

更新日:2010-01-14 06:43:50

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超時空物語RAIN 第一部 わたしの仲間たち