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≪ガガッ……明日の…式典……交通規制……湾岸横断道路封鎖…≫
 いきなり誰かの声が聞こえてきたので、わたしはびっくりしました。
 その方向を確かめると、ジャッキーがさっきからいじくっていた装置からでした。どうもラジオの音声のようです。
≪…では通行証…必要になりますので注意してください。尚…の指示に従って…≫
 音声は所々雑音で聞き取りにくいのですが、どうやらエマトリアーヌの記念式典関係のニュースでしょう。ジャッキーはスピーカーに耳を近づけて熱心に聞き入っています。
 ジャッキーの頭の怪我は、少し血が外までにじんではいますが、もう大丈夫のようです。
 でも一体彼は、これからこのエマトリアで何をしようというのでしょうか。
 この貨物列車は、きのうのエマトリアンエクスプレスと同じエマトリアーヌ行きですが、今はニュースでも言っていたように、式典を明日に控えて、都の警備はかなり厳重なものです。逮捕される危険を犯してまでわざわざ行くということは、彼はやはり都に重要な用事があるのでしょう。
 ジャッキーはわたしが逃げようという気が無いのに気づいているのか、それとも逃げてもすぐにまた捕まえる自信があるのか、今日はきのうよりはわたしを自由にさせてくれています。両手もこのように自由ですし、トイレも離れてさせてくれました。バッテリーパックと拳銃は、相変わらず取り上げられたままですが。
 それにしてもわたしはお腹がすいていました。こんな状況でもちゃんとわたしの体は生きるための営みを続けているのですから、なんだか頼もしく思えてきます。
 きのうの晩、お腹一杯食べたわたしがこうですから、ジャッキーも当然空腹でしょう。が、彼は全然そんな風に見えず、また、食料を調達することもまるで考えてないようです。きのうのカオス先輩やCSとの戦いぶりといい、怪我の回復力といい、わたしはひょっとしたらこの人、人間ではないのかとさえ思えてきました。
「あなた、お腹すかないの?」
 わたしは空腹感や長い沈黙に耐えかねて尋ねました。事実、それが貨物列車に乗り込んで初めての言葉でした。でもやっぱり、彼はラジオの音声に聞き入ったままこちらに見向きもしません。小さなボロボロの手帳をパラパラとめくりながら、一言も聞き漏らすまいといった雰囲気で、スピーカーに耳を押し当てているのです。
 これ以上わたしが何かしゃべって邪魔すると殴られてしまいそうで、わたしは小さく溜息をついてもう何も言いませんでした。

更新日:2009-12-23 06:03:54

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超時空物語RAIN 第一部 わたしの仲間たち