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小説

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闇に潜む敵

 男は、またひたすら黙り込んでいます。身動き一つとらず、わたしから奪ったバッテリーパックを左手で握りしめたまま、その視点も向こうの壁の一箇所から全く動きません。
 わたしは、男が首に下げている認識票(軍隊で、負傷や戦死した時などに本人を識別する二枚一組の金属製の札)が、いつの間にか服の外に出ているのに気がつきました。七桁の認識番号と、O型という血液型の他、階級、そして、“Jacky=Bistroheim”という名前がはっきりと確認できます。
『ジャッキー=ビシュトロハイム…』
 わたしは心の中でつぶやいて、ふと「あれ?」と思いました。そう、ドイツ人の姓に英語形の名がくっついているのです。
 わたしたちのエマトリアでは、昔からたくさんの移民が暮らしていていて、そういう名前はざらにあるのですが、ドイツ語圏のミュンツェルンは、今も国民のほとんどがドイツ系です。
 特に“ギガ”は、元々由緒正しきミュンツェルンの元貴族や企業家たちが中心の組織なので、名前もドイツ語式にするでしょう。しかも正式な呼び名ではなく、愛称のまま書き込んであることも不自然に思えました。
 一体この男は“ギガ”のどういう人なのでしょうか。
 階級もドイツ式で書かれているので正確にはわかりませんが、おそらく軍曹あたり。顔や肌の特徴もおよそゲルマン系です。エマトリアの公用語の一つであるフランス語も、彼はとても流暢で、全く違和感を覚えません。こうして彼のことをよく観察していると、かなりいろいろなことがわかってきました。
 と、その時です。彼――ジャッキーは、突然何かに気がついたようにピクリと動いて、素早くトンネルの奥の方に視線を向けました。すでに彼の右手は背中の電子剣のグリップに伸びています。
『助けが来たのかも知れない!』
 わたしは思わずジャッキーの視線の先を追いました。しかしわたしには何も見えませんし、トンネルの奥から助けが来るのも変です。たちまち期待は不安に変わり、わたしは何らかの危険が迫っていることを本能的に察知しました。

更新日:2009-09-28 04:22:50

超時空物語RAIN 第一部 わたしの仲間たち