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小説

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夜行列車

 時空暦998年四月十八日、現地時間午後十一時六分。エマトリア連邦共和国ブルゴーニュ州北部、天候雨。荒涼たるブルゴーニュ原野の中を疾走する、全十四両編成の列車がありました。
 先頭を行くUR‐90型時空機関車は、その超セラミックで固められた肉体に搭載された最新式時空エンジンを力一杯稼働させ、常に時速約百二十㎞の速度を保って、自らの力を誇示するかのように十三両の客車及び制御車をぐんぐんと引っ張っていました。
 その列車の先頭から六両目、つまり5号車最後部のコンパートメントの座席で、一人の若い女性が車窓に寄り添うようにして外の暗闇をじっと眺めていました。
 大きなグレーの瞳。小さくて存在感の無い鼻。少し幼さが残る口元。耳には青くて小さな雫形のピアス。腰近くにまで届く長い栗色の髪を、白いリボンで背中に束ねています。
 背は高い方ですが、顔だけ見ると十六歳そこそこくらいにしか見えない、少女のような女性です。
 ところが、彼女が着ている服装は、そのイメージを覆してしまいそうなほど堅苦しいものでした。
 肩章と詰襟の付いた両止め式の上着。可愛らしさのかけらもないタイトスカート。旧式でいかめしい革のブーツ。それらの色はすべてアイボリーとブラックで統一され、何かの制服のようです。よく見ると彼女と反対側の席には、ホルダーに入ったままの拳銃と、電子サーベルが無造作に置かれてあります。
 エマトリアに住む人なら誰でも知っているこの服装は、“エマトリア連邦共和国鉄道警察隊”の制服です。その襟章に描かれた二本のレールと車輪をモチーフにしたデザインが、エマトリア鉄道警察官の証なのです。
 この頃のエマトリア共和国は、長距離旅客者たちの足がすでに航空機主流に移った先進諸国の中でも、鉄道旅行は依然として愛されていましたから、その安全と秩序を守るのが彼女たちの主な仕事でした。
 勇ましくて威厳があり、公務員の中でも人気のある職業なのですが、当時の国際情勢のせいか、年々危険な任務が多くなり、彼女のような若い女性の隊員は珍しい方でした。
 彼女の名はレイン=パスプローナ。十九歳だった頃のわたしです。

更新日:2009-09-28 02:49:44

超時空物語RAIN 第一部 わたしの仲間たち