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閑話休題 なっ、なんじゃこりゃあ……?

  お題としましたのは、昔の人気TVドラマシリーズ『太陽に吠えろ』で今はなき天才俳優松田勇作演ずるジーパン刑事が犯人に刺され殉職するあの有名なシーンからのパロディーです。
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  犯人に刺され倒れていた松田勇作が、建設中の高層マンションの隅で用をたし、手のひらを一瞥するや我を疑い、
「なっ、なんじゃこりゃー、ちっ、血だーっ、死にたくねーよーっ」
 といって床を掻いて果てた。
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 ──いやあ、強烈でしたねえ。滑稽でもあり当時の青少年は真似たものですよ。
 さて本日の話題は、古典の教科書にも引用される有名な『伊勢物語』です。これを読んでいて、すごい場面目にぶつかってしまいました。こりゃあ、私が文部大臣でも教科書には載せられませんわ。問題のエピソードは、『伊勢物語』六十三段「つくも髪」です。
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 平安の昔、恋のカリスマ在原業平(ありわらの なりひら)に憧れる一人の老婆がおりました。来年には百歳になります。──百歳から一歳を引いたら九十九歳です。九十九を「つくも」と呼びます。ゆえに「つくも髪」は九十九歳の女性の髪。「百」という漢字から「一」をとったら「白」、だから白髪じゃわい──とそうなるわけです……まわりくどいダジャレですねえ。
 さてその老婆、仮病を使って寝込んでいたら三人の息子が見舞いにやってきました。
「あたしゃもう歳じゃ、死ぬ前に憧れの業平様とエッチしたいのお」
 長男、次男は、「勝手に死ねばあ」といって立ち去りました。ところが親孝行な三男坊だけはまじめに母の願いをききいれて、いまをときめく都の貴公子業平卿の屋敷に出向きお願いをします。
 「余命いくばくもない母の願いにございます。どうかエッチしてやってください」
「あい判った」
 業平卿の器は大きく、その願いをかなえてやりました。けれど憐れみから一度しただけで二度来るはずもないこと。とはいえ恋に年齢などなく老婆はそそくさと業平卿の屋敷にかけつけ、ぴょんぴょんジャンプして垣根から業平卿のお姿を拝見しておりましたところ、貴公子もさすがに気づきます。けれど業平卿、そこはやさしく気づかぬふりで、
「今夜そちらへおうかがいしたいものだなあ」
 という意味の和歌を詠みます。
 喜々とした老婆は、ダッシュで帰宅し布団を敷いて横たわり、業平卿をお待ち申し上げていたとのこと。
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 ──なっ、なんじゃこりゃあ……? (筆者悶絶)

更新日:2009-09-26 13:41:29

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