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三部くんの教室

三部(さんぶ)タダノリ君は、都会の中学校で登校拒否になり、高校受験もせずにほぼ1年、自宅にひきこもっていた。
登校拒否のきっかけはちょっとしたいじめだが、それ以前から三部くんは、学校や世の中が、自分にはとても生きにくい場所であるというふうに感じていた。だから、学校や友達や先生が悪いというふうには考えていない。

三部くんは、この学校のことをネットで知って、自分で応募してきた。こんな学校があるから行きたい、と言ったとき、両親はとても驚いたが、また自分で自分の道を切り開こうとした三部くんをうれしくも思ったのである。

三部くんが地球学園を選んだ決め手は、「工作室」の存在だった。三部くんは、小学校のときから手先が器用で、プラモデルや科学雑誌の附録を組み立てるのがとても好きだった。中でも、小学校5年生の夏休みに「木工教室」に行ってから、「木工」がとても気になっていた。
木工教室では、バラバラにならんでいた棒から、小さな「椅子」を作らせてもらった。その時、三部くんがとってきた材料に、「フシ」があったのである。
「あぁ、これは使えないね」指導するおじさんは、ちょっと困った顔をした。
「予備の材料ないんだよねぇ。よっしゃ、何か適当に作ってやるわ」
使えなかった材料は、椅子の後ろで左右の柱をつなぎ、「背もたれ」になるところだったのだが、おじさんはどこからか一枚の大きな板を持ってきて、機械でたちまちその部品をつくってしまった。それはダメになった材料より明らかに大きく立派で、だから完成した作品を並べたとき、三部くんの作品だけがとても目立ったのである。

その時、三部くんは、木工というのは決められた材料で、決められたものを作るのではないということを知った。材料から自分で作る、というおじさんをまぶしく思ったのである。

更新日:2009-07-29 16:30:32

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